夜陰に紛れ、ルパンと次元は再び美術館へとやってきていた。
タイトな黒い仕事服に身を包み、サーチライトをかいくぐっていく。
1番警備の薄い場所の塀を難なく乗り越え、下に居た警官に催眠ガスを嗅がせて眠らせる。
そして、建物の外にある換気口からするりと中に進入した。
「…とりあえず第一段階はクリア」
狭い換気ダクトの中。ルパンはごそごそと腰に下げた鞄から、なにやらリモコンとイヤホンを取り出す。
「高性能っていうのも、時には考え物なんだよな〜」
そんなことを呟きながら、ピッとリモコンを操作する。
と。
途端に、辺りに警報が鳴り響いた。
『何事だ!』
『"夜の雫"がある、特別展示室の警報です!』
『すぐに調べさせろ!!』
『…報告が入りました。確認しましたが、異常はないそうです!』
『何だと? 警報装置の誤作動か?』
『…そうかもしれません』
ルパンと次元と、それぞれが片方ずつ突っ込んだイヤホンから、そんな声がもれ聞こえてくる。
ルパンが、迷子を装って連れて行かれた警備室に、盗聴器を仕掛けたのだ。
「予定通りだな」
ニッと次元が笑った。
「んじゃもう一度」
ルパンが再びリモコンを押す。
再び鳴り始める警報。
『またか!?』
『…特別室より報告、異常はないそうです』
『どうなってるんだ一体!!』
「奴ら慌ててるぜ」
「じゃ、もう一回」
三度、リモコンを押す。
『またか!! もういい! 警報を切れ。赤外線装置もだ!! 人員を裂いて特別室に配置しろ!!』
「やったぜ!!」
ルパンと次元は顔を見合わせて笑った。
昼間、次元が展示室に仕掛けたのは、防犯装置を作動させるための機械だった。
微細な振動を発して、防犯装置に誤作動を起こさせる機械だ。
どんなに高感度な警報でも、そのスイッチが入っていなければ意味がない。
そこに目をつけ、"どうやって機械を欺いて進入するか"ではなく、"システムそのものを使わせない"という方法をとったのだ。
頻繁に警報が鳴り、それが全て誤作動だとしたら、大抵の人間は機械ではなく人間に頼ろうとする。
それが狙いだった。
人間が相手なら、眠らすなりなんなり仕事は簡単だ。
「計画通りだ。行くぞ」
2人は換気ダクトをつたい、問題の部屋へ向かう。迷路のような排気管も、ルパン家の資料のおかげでしっかり頭に入っている。
(ここだ)
先を進んでいたルパンが、止まる。
真下の展示室には5〜6人の警官たち。
(ガスマスクの用意は?)
(ばっちり)
2人は取り出したガスマスクを被る。
次元は取り出した発煙筒に火をつけ、真下の部屋に投げ込んだ。
「何だ!?」
「ガス!? 警備室に連絡…を…」
即効性の催眠ガスだ。警官たちは次々に床に昏倒していく。
発煙筒を投げ込んできっかり3分。
「もういいだろ」
マスクを脱ぎ捨て、ルパンと次元は部屋に音もなく飛び降りた。
倒れこんだ警官たちを起こさないように忍び歩きしながら、部屋の中央にある展示台に近寄る。
「警報は…やっぱ切れてるな」
「俺様の計画に狂いはないの!」
ルパンはそう言ってにひひひと笑う。
「これなら合格間違いなしだぜ。なんと鮮やかな手口! …帰ったら俺にアイスでもおごれよな?」
「何言ってんだ。最初に案出したのは俺だぜ?」
「機械作ったの俺じゃねぇかよ!」」
そんなことを言い合いながら、次元はガラスケースをゆっくりと取り外す。
「やっぱ本物は綺麗だなぁ〜」
優美に光るパールを覗き込み、惚れ惚れしたようにルパンが唸る。
「そっか。お前まだ見てなかったっけ」
「確かに親父の趣味にあいそうだな。…欲しいんなら自分で盗りにくりゃいいのに」
そう言って、おもむろにルパンはネックレスに手を伸ばす。
と。
ジリリリリリリリリ!!!
その手がネックレスに触れるよりも先に。
突然、耳をつんざくような警報が、辺りに響き渡った。