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5.Steal

 夜陰に紛れ、ルパンと次元は再び美術館へとやってきていた。

 タイトな黒い仕事服に身を包み、サーチライトをかいくぐっていく。 1番警備の薄い場所の塀を難なく乗り越え、下に居た警官に催眠ガスを嗅がせて眠らせる。
 そして、建物の外にある換気口からするりと中に進入した。

「…とりあえず第一段階はクリア」

 狭い換気ダクトの中。ルパンはごそごそと腰に下げた鞄から、なにやらリモコンとイヤホンを取り出す。

「高性能っていうのも、時には考え物なんだよな〜」

 そんなことを呟きながら、ピッとリモコンを操作する。
と。
 途端に、辺りに警報が鳴り響いた。

『何事だ!』
『"夜の雫"がある、特別展示室の警報です!』
『すぐに調べさせろ!!』
『…報告が入りました。確認しましたが、異常はないそうです!』
『何だと? 警報装置の誤作動か?』
『…そうかもしれません』

 ルパンと次元と、それぞれが片方ずつ突っ込んだイヤホンから、そんな声がもれ聞こえてくる。
 ルパンが、迷子を装って連れて行かれた警備室に、盗聴器を仕掛けたのだ。

「予定通りだな」

 ニッと次元が笑った。

「んじゃもう一度」

 ルパンが再びリモコンを押す。 再び鳴り始める警報。

『またか!?』
『…特別室より報告、異常はないそうです』
『どうなってるんだ一体!!』

「奴ら慌ててるぜ」
「じゃ、もう一回」

 三度、リモコンを押す。

『またか!! もういい! 警報を切れ。赤外線装置もだ!! 人員を裂いて特別室に配置しろ!!』

「やったぜ!!」

 ルパンと次元は顔を見合わせて笑った。

 昼間、次元が展示室に仕掛けたのは、防犯装置を作動させるための機械だった。 微細な振動を発して、防犯装置に誤作動を起こさせる機械だ。
 どんなに高感度な警報でも、そのスイッチが入っていなければ意味がない。 そこに目をつけ、"どうやって機械を欺いて進入するか"ではなく、"システムそのものを使わせない"という方法をとったのだ。 頻繁に警報が鳴り、それが全て誤作動だとしたら、大抵の人間は機械ではなく人間に頼ろうとする。 それが狙いだった。
 人間が相手なら、眠らすなりなんなり仕事は簡単だ。

「計画通りだ。行くぞ」

 2人は換気ダクトをつたい、問題の部屋へ向かう。迷路のような排気管も、ルパン家の資料のおかげでしっかり頭に入っている。

(ここだ)

 先を進んでいたルパンが、止まる。

 真下の展示室には5〜6人の警官たち。

(ガスマスクの用意は?)
(ばっちり)

 2人は取り出したガスマスクを被る。 次元は取り出した発煙筒に火をつけ、真下の部屋に投げ込んだ。

「何だ!?」
「ガス!? 警備室に連絡…を…」

 即効性の催眠ガスだ。警官たちは次々に床に昏倒していく。 発煙筒を投げ込んできっかり3分。

「もういいだろ」

 マスクを脱ぎ捨て、ルパンと次元は部屋に音もなく飛び降りた。 倒れこんだ警官たちを起こさないように忍び歩きしながら、部屋の中央にある展示台に近寄る。

「警報は…やっぱ切れてるな」
「俺様の計画に狂いはないの!」

 ルパンはそう言ってにひひひと笑う。

「これなら合格間違いなしだぜ。なんと鮮やかな手口! …帰ったら俺にアイスでもおごれよな?」
「何言ってんだ。最初に案出したのは俺だぜ?」
「機械作ったの俺じゃねぇかよ!」」

 そんなことを言い合いながら、次元はガラスケースをゆっくりと取り外す。

「やっぱ本物は綺麗だなぁ〜」

 優美に光るパールを覗き込み、惚れ惚れしたようにルパンが唸る。

「そっか。お前まだ見てなかったっけ」

「確かに親父の趣味にあいそうだな。…欲しいんなら自分で盗りにくりゃいいのに」

 そう言って、おもむろにルパンはネックレスに手を伸ばす。
と。

 ジリリリリリリリリ!!!

 その手がネックレスに触れるよりも先に。

突然、耳をつんざくような警報が、辺りに響き渡った。

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