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4.Decisive action

 ついに決行の日が来た。

前日からN国入りしていたルパンと次元は、問題の美術館へ最後の下見に行っていた。 もちろんこれもすでに計画の一端である。

「さて、ここか、問題の美術館ってのは」

 正面の門の前に立ってルパンは呟いた。 個人美術館ということもあって、規模はそれほど大きくない。

「むしろウチのほうがデカイしいいもん揃ってるぞ」
「…天下のルパン家と比べてどうすんだ」

 思わず突っ込みを入れる次元。
 ルパン家にあるのは全部一世や二世がこういった美術館から盗んできたもの。世界の1級品ばかりが揃っているのもあたりまえだ。

「計画は覚えてるだろうな?」
「ああ、ばっちりだ」

 入館料を払い、館内へ入る。
 なぜか、エントランスには警官と思しき制服を着た男たち。お客よりも人数が多いくらいに配置され、目を光らせている。

(なんかあったのか? これじゃ仕込みにくいぞ)
(…聞いてみるか)

 ひそひそとそんな会話を交わし、次元のほうが警官の一人に近寄る。

「何かあったんですか? やけに警備が厳重ですけど」
「ん? ああ、"ルパン三世"とかいう奴から、この館の目玉、"夜の雫"を盗むと犯行予告が届いたのだ」
「な…」

 警官の言葉に、思わず絶句する次元。そんな次元を警官はジロリと睨みつけた。

「どうかしたのか?」
「い…いや、なんでも。じゃ、頑張ってくださいね」

 キャスケットの下の動揺を悟られないようにしながら、そそくさとその場を立ち去る。

(どーゆーことだ、ルパン! お前犯行予告なんか送ったのか!?)
(知らねぇよ!! 俺でもないしお前でもないとすると…)

 そこで2人ははたと顔を見合わせ、次の瞬間大きくため息をついた。

「二世様…だな」
「親父…だな」

 2人してがっくりと肩を落とす。

「あの狸、俺たちをおちょくってんのか?」

 仏頂面で呻くルパン。

「言ったってしょうがねぇだろ。もう俺たちが入り込むのはばれてるんだ。どうする? 計画通りで行くか?」
「…やるしかねぇだろ。行くぜ」

 軽くハイタッチを交わし、それぞれ別々の方向へ歩き出す。

 次元は、ちょうどいい具合にエントランスに現れた団体客に交じり、展示室へ向かう。絵画、骨董、書画etc…節操なくいろんなものが置いてあるが、確かに大したものはない。 が、そんな部屋にもちゃんと警官たちが立って、辺りを警戒している。

 そうこうしているうちに、問題のものがある部屋へとたどり着いた。

「なるほど、これが"夜の雫"…」

 写真で見ていたものより、現物のきらびやかさはまた違う。大振りのパールも、世界最大の名に相応しいだけの存在感で、見るものを圧倒している。

(さて、そろそろルパンが動き出すころだけど…)

 そう思ったとき、展示室の入り口の方で子供の泣き声がし始めた。

「何だ!?」

 客や警官たちの意識が一瞬そちらへ向く。 その間に、次元は展示台の下に小さな機械を取り付けていた。

「うぇ〜〜〜〜ん!! 兄ちゃんとはぐれた〜〜〜〜」
「ああ、わかったわかった。探してやるから来い」

 そんなやり取りが聞こえる。 その間にもう一つ、今度は部屋の壁の隅にも同じものを取り付ける。

「おい、誰かこの坊主を警備室に連れて行け」

 警官に連れられて、展示室を出て行く子供のほうをちらりと伺う。 その子は次元と目があうと、小さく笑みを浮かべた。

(…にしても、顔はともかく、どうやって身長まで変えてるんだ?)

 その子供こそ、変装したルパン。7〜8歳の子供に化けるために身長まで変えてしまうのだから、本当に恐れ入る。

「さてと…」

 自分の方の仕込みは済んだ。あとは時間を見計らって、ルパンを迎えに行けばいいのだが。

「…おい」
「はいっ!?」

 唐突に後ろから呼びかけられ、次元は思わず裏返った声で返事をした。

「な…なんですか!?」

 そこに居たのは、よれよれのトレンチコートを着た男。年の頃は27・8といったところか。 ただ、太い眉に大きな目、厳つい顎という特徴的な顔立ちのせいで老けて見えるだけで、本当はもっと若いのかもしれない。
 仕込みを見られたのかと、冷や汗をかく次元に、しかし男は全く別のことを聞いてきた。

「お前、さっきのガキの兄貴じゃないのか?」
「…へ?」
「さっき子供が泣いてたろ。見なかったか?」
「あ…ありがとうございます! よかった〜探してたんです。それじゃ」

 矢継ぎ早にそれだけ言うと、男の返事も聞かず、次元は慌ててルパンが連れて行かれた事務所のほうへと駆け出していた。

(何者だ? あの男)
 
 客には見えなかったから、おそらくは警察関係者なのだろう。 風貌に似合わない、鋭い眼光がまだ背中に纏わりついている気がする。

 得体の知れない不安を抱えながら、次元は事務所の扉をノックしていた。

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【なかがき】
最初は出すつもりなかったんですが、出演してもらいました。銭形警部。 このころはまだきっと警部じゃないと思いますが。

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