凄絶な気合と共に白刃が月光に閃き、マシンガンを持った男たちは声もなくバタバタと地面に崩れ落ちた。
「…安心しろ。峰打ちだ」
既に意識の無い男たちに律儀にそう告げ、新たにやってきた一団に音も無く走り寄って行く。
人間離れした跳躍で軽々と男たちの頭上に舞い上がり、刀を振るう。
その姿は、芸術的と言ったら言い過ぎかもしれないが、まるで舞いでも舞うかのようで美しいとさえ思ってしまう。
「相変わらずすげぇな」
マグナムに弾を補充しながら、俺はピュウと口笛を吹いた。さすが世界一の剣豪石川五右ェ門だ。
俺はその白い影を追いながら、木々の影に潜む奴らをマグナムで沈めていく。
木の影・噴水の裏・バルコニーの影。五右ェ門の死角になるところはすなわち敵の潜むところだ。
奴らが潜むところを見つけるのは俺の長年の経験がものを言う。
いくら五右ェ門が世界一の剣豪でも、刀は接近戦しか出来ない。
だからその刀の届かない範囲をやるのは俺の仕事だ。
「次元!!ルパンから連絡はまだか!?」
飛び交う銃弾を片っ端から斬鉄剣で叩き落しながら五右ェ門が叫んだ。
「まだだ!!あいつ一体何してやがんだ!!」
俺も周りを囲む男たちに片っ端から銃弾をお見舞いしながら、爆音に負けじと叫び返す。
俺たちは打ち合わせの通りクラウンの屋敷に忍び込むことになった。
屋敷にはルパンが1人で潜り込み、俺は退路確保の運転手、五右ェ門はルパンの退却サポートをするということだったのだが。
「まさか捕まったのではあるまいな?」
「…どうだろうな」
作戦終了の予定時間を過ぎてもルパンから連絡は入らない。
それどころか待機していた俺も五右ェ門も警備の奴らに見つかり、こんな大立ち回りを演じるハメになってしまったのである。
「どうやら俺たちが入り込むのはばれてたらしいな。予告もしてねぇのにクラウンって野郎、なかなかやるじゃねぇか!」
「そんなことを言っている場合か!!」
後ろ!!
言われて俺が振り向くのと、五右ェ門が俺の後ろにいた敵を切り伏せるのはほぼ同時だった。
「…悪ぃ、油断した」
「気をつけろ」
「にしても、これだから金持ちってのは嫌いだぜ。金に飽かせてしこたま雑魚を雇いやがって」
「雑魚でもこれだけ数が多いとちと面倒だ」
斬っても撃っても後から後から増える敵を前に、俺たちは少々押され気味だった。
いつの間にかぐるりと周りを取り囲まれ、俺と五右ェ門は背中合わせに立っていた。
さすがに五右ェ門の息も上がっているし、俺のほうもマグナムの斬弾はこの状況を切り抜けるには心もとない数だ。
「このままじゃ俺たちもヤバイぜ」
「…かくなる上は強行突破するしかあるまい」
武士道とは死ぬことと見つけたり。
刀を構えなおしながらそう宣言する。この潔さが侍らしいところだと思うが。
「あー…頼むから死ぬのはよそうぜ。まだあの世には行きたかねぇや」
俺もマグナムを構えなおしたその時。
どおおおおん!!
囲みの外。屋敷の方から突然、ひときわ大きな爆音が轟いた。
「何だ!?」
思わず俺たちも、俺たちを囲んでいた男たちもそちらの方を向く。
すると、人垣を突っ切って、たいそう趣味の悪いド派手なオープンカーが一台姿を現した。
運転席に座るのはルパン。
退路を絶たれたことは連絡していたから、どうやら逃走用にクラウンの車をかっぱらって来たらしい。
「ルパン!!」
「次元!五右ェ門!乗れ!!ズラかるぜ!!」
苦い表情のルパン。どうやら計画は失敗、だったらしい。
しかも。
「待てぇ!ルパーン!!!」
ルパンの後ろから飛び出してきたのは、おなじみのトレンチコート姿。
「げっ…銭形!?」
何故だか嬉々とした表情で、投げ手錠を振り回しながら俺たちのほうへ突っ込んでくる。
「とっつあんてば、今回は予告状も出してなかったのに、ちゃーんと金庫の中で待ってるんだぜ」
ルパンがうんざりしたように肩をすくめる。
本当に、『勤勉な』としか言い様が無い。
「とにかく話は後だ。早く乗れ!!」
「おう!」
俺は威嚇に2・3発マグナムをぶっ放しておいてから車に飛び乗った。
「五右ェ門!急げ!」
「うむ!」
五右ェ門が車の方に向き直りかけたその一瞬。
足元に倒れていた男がその背中に拳銃を向けた。
「危ねぇ!」
俺のマグナムが火を噴くのと、男が引き金を引くのはほぼ同時だった。
「ぐあぁ!」
男は悲鳴をあげて絶命する。そして。
五右ェ門の白い着物にも鮮血が散った。
男の放った銃弾が五右ェ門の左肩を貫いたのだ。
『五右ェ門!?』
ルパンと俺と。そして銭形の叫びが重なった。
ふらりとよろめいた五右ェ門の手を咄嗟に掴み、そのまま車に引きずり込む。
「ルパン!出せ!!」
「わかってらぁ!」
乱暴にギアを入れ替え、車を急発進させる。
「ルパン!!待てぇ!!」
追いすがる銭形と雑魚どもに向かって、俺はもう何発か銃弾をお見舞いしておく。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だ…」
五右ェ門は青い顔をしながらも気丈にそう言い放つ。
鼻を衝く、血の臭い。
「拙者としたことが…まだまだ修行が足りんな」
自嘲気味に唇を歪めた。
気丈に振舞ってはいるが、額に浮き出た汗の量は尋常ではなく、傷口を押さえた手も見る間に赤く染まっていく。
「しっかりつかまってろよ!!」
ルパンは更に車のスピードをあげ、鉄格子の門を突き破り屋敷から脱出する。
後ろから追いかけてくるのは、銭形の部下と思しきパトカーと、それに交じってクラウンの部下だろう黒い車。
先頭を走るパトカーのタイヤを打ち抜く。
コントロールを失った車は、後からきた車も巻き込んで派手に横転した。
これでもう少しは時間を稼げるはずだが、銭形までいるとなかなか面倒なことになりそうだ。
「チッ、あの野郎、絶対許さねぇからな」
ハンドルを握ったまま歯噛みするルパンの表情は、厳しいものだった。
【なかがき】
すすすすす、すみません、ゴエに怪我を負わせてしまいました!!(滝汗)
てか、ゴエがこんな簡単にやられる訳ないじゃん!!ってツッコミが四方八方から聞こえる…
そして盗みは失敗してしまいました…でもこれで諦めるルパンじゃないですよ、もちろん。
'10.04.24 秋月 拝