Reason to have chosen you

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「おまったせ〜次元ちゃん、五右ェ門ちゃん。お仕事のお時間よ〜ん♪」

 翌日、約束どおり昼の12時きっかりにアジトへやってきたルパンは、やたらに高いテンションで俺たちの前に姿を現した。
 太陽の降り注ぐ地中海の海は今日も青く。
俺と五右ェ門は、窓辺で景色を眺めながらそれぞれに獲物の手入れをしていたところだった。

「どうしたルパン。やけに上機嫌ではないか?」

 斬鉄剣に打ち粉をはたきながら、五右ェ門が訝しげに問う。

「何かいいことでもあったか?」
「ん?いやなぁに、ちょっとね〜」

 ぬふふふと笑う。放っておいたら鼻歌でも歌いだしそうな様子だ。
長い付き合いからかんがみてもこういうときのルパンは何かあるのだが、9割方女がらみと見ていい。

「ふうん?」
「ま、いいから仕事の話に移ろうぜ」

 そういうと、ルパンは抱えていた封筒からバサバサと資料を取り出す。

「…おいこれ全部次の仕事の資料か?」

 取り出した煙草に火を点けながら、俺は思わずそう訊く。
様々な見取り図・配置図・写真・その他データなどなど…。
いくら3ヶ月間があったからとはいえ、1人でこれだけの情報を集めるのはかなり大変だったのではないかと思うのだが。
 どうやら五右ェ門のほうも同じ疑問を抱いたらしい。

「…おぬし1人でこれだけの情報を集めたのか?」
「ぬふふ。まぁいいじゃないの。俺様にかかればこれくらい軽いもんよ」

 少しばかりひっかかる言い方だが、嫌な予感がするのは俺だけだろうか。

「とにかく始めるぜ。次の獲物はこいつだ」

 そう言ってルパンが差し出したのは、ウエディングドレスを着た女性がブーケを手に立っている1枚の写真だった。

「次のお宝はそのブーケさ。見ての通りそいつはただの花束じゃねぇ」
「こいつはすげぇ。これ全部宝石…か?」

 カメラのフラッシュに反射して、花束は光を帯びてきらめいていた。

「ダイヤ・サファイア・ルビー・エメラルド・オパール…よくもまぁこれだけのものを集めたものだな」

 呆れたように五右ェ門が唸る。

「そいつはジュエリーブーケって言ってな。
どれもこれもただの宝石としても1級品なんだが、それをご丁寧に集めて細工加工して花束に仕上げてあんのさ」
「全く豪勢なもんだぜ。どこの成金趣味野郎の持ちもんだ?」
「ここいら地中海を中心に商売してる貿易商、クラウンって野郎だ」

 そう言いながらルパンはごそごそと別の写真を漁る。
手渡されたそれには、いかにも腹黒そうな狸親父が写っていた。

「まぁ、裏じゃなかなかにあくどい仕事なんかも手広くやってるみたいだぜ。
元々はそいつが一人娘の結婚式のために特別にあつらえたもんらしいんだ。今はそのクラウンの手元にあるんだがな」

 なるほど。ということはどうやらこっちのウエディングドレス姿の女性が狸親父の一人娘ということらしい。

「へぇ、親父に似なくて良かったな。なかなか美人じゃねぇか」

 スペイン系の血が入っているのか、ゆるくクセのついた黒髪に浅黒い肌。
ちょっとキツい感じの黒い瞳がこちらを見ている。

「ふうん?あ、そっか。次元ちゃんってこういう子が好みだもんね〜」
「バカ言え!そんなんじゃねぇよっ!!」
「隠さなくってもいいじゃんよ〜」

 ぬふふふと笑うルパン。
こいつ、人をおちょくりやがって。俺がさらに口を開きかけたとき。

「おい」

 隣で地を這うような渋い声がした。

「おぬしら話がそれておるぞ」

 見れば五右ェ門がじろりとこちらを睨んでいる。
 その目はまるで全てを見透かすかのようで、何故だか俺を不安にさせる。
なんでこいつの目線にこんなにドギマギしなきゃいけないんだ。本当に昨日からどうかしてるぜ、俺は。
 俺の葛藤なんぞに気付くわけもなく、ルパンと五右ェ門はなにやら言い合っている。

「ちぇ〜五右ェ門ちゃんてば相変わらずカタイねぇ〜」
「おぬしがユルいだけだ」

 にべも無い言い方にルパンが肩をすくめる。

「面白くねぇの」
「して?ルパン。その花束を奪ってどうしようというのだ?」

 ルパンの台詞などさらりとかわして五右ェ門が尋ねる。それはさっきから俺も思っていたことだった。

「ん?いや、ちょうどこのテレビの上がなーんか寂しいと思ってさあ。ここに飾ったらちょうどいいと思うんだけどどぉ?」

 どう考えても白々しい。そんな言い訳で俺たちが騙せると思ってるんだとしたら、甘く見られたものだ。

「…ルパン。俺たちがそんな言い訳を信じると思うか?」
「本当のことを申せ。…どうせまた不二子殿であろう?」
「ありゃ、ばれちまった?」

 俺たちの言葉にルパンはあっさりと嘘を認めた。

「わからねぇわけねぇだろ。何年付き合ってると思ってんだ?」
「だって不二子ちゃんがさ、『ルパ〜ン、アタシのためにジュエリーブーケ盗んできて〜盗って来てくれたらアタシあなたと
結婚してあげるわ〜』って言うんだもんよ〜ぬふふふふふ〜♪」

 グネグネと不二子のマネをしつつ笑うルパン。その顔は完全に締まりの無いサル顔だ。

「けっ。デレデレしやがって。俺は降りるぜ」

 煙草を揉み消し、いち抜けた。と席を立つ。そんなに毎回毎回付き合ってられるかってんだ。

「なんでお前は毎回毎回懲りないんだ?どうせまたあの女に騙されてるんだよ」
「じーげーんー。そういう言い方はないんでないの?」
「うるせぇ!今まであの女が仕事に噛んできてなんかいいことがあったか!?」

 思わず語気が荒ぐ。もちろん全てがそうだったとは言わないが、裏切られたことハメられたことを数え上げれば、両手どころか
両足の指があったって足りやしない。命を落としかけたことだって1度や2度ではないのだ。

「じゃあ好きにしろよ。五右ェ門、お前どうする?」
「どうせお前も降りんだろ?一緒に街に飲みにでも行こうぜ」

 俺は胸ポケットから新しい煙草を取り出しながら、五右ェ門のほうを伺う。
いつもなら、五右ェ門だって不二子がらみとわかったところで降りると言い出すのだが。

「拙者、今回は手伝うぞ」

 五右ェ門の意外な言葉に、俺は咥えかけていた煙草を取り落とした。

「何だって!?」
「…どったの五右ェ門。珍しい」

 自分で話を持ちかけたくせに、まさか乗ってくるとは思わなかったのかルパンも驚いている。

「いや、その…」

 妙に言いよどむ五右ェ門。

「なんだ、不二子に色仕掛けでたぶらかされたか?」
「そうではない。拙者、不二子殿に借りがあるのだ」
『借り〜!?』

 俺とルパンの声が重なった。借りとはどういうことだ。
 五右ェ門は「うむ」と頷くが、どうも精彩を欠くというか、なんとなく浮かない表情を見せている。

「この前の修行中、わざわざ不二子殿が拙者を尋ねてきてな。拙者のためにたくあんと梅干を差し入れてくれた上、味噌汁を
馳走してくれたのだ」
「不二子ちゃんの手料理だぁ!?五右ェ門、羨ましすぎるぜ〜〜〜!!」

 隣でルパンが騒いでいるが、どうもツッコむところが違うと思う。

「…ははぁん。不二子の奴、これを見越して五右ェ門懐柔作戦に出やがったな」

 それにしても五右ェ門の妙な義理堅さといったらない。
不二子の普段の行いからしたら俺たちにそれぐらいしたって全然バチはあたらないと思うが、どうもそうは思わないらしい。
しかし、さすがに不二子に行動パターンを読まれて利用されたことぐらいはわかっているようで、
下がった眉とへの字に曲がった口が、納得していないことを雄弁に語っている。
それでもその二つを天秤にかけて味噌汁の恩義に報おうというのだから、つくづく侍の思考回路は理解不能だと思う。
まぁそれが五右ェ門らしいといえばらしいのだが。
その憮然とした表情を見ていたら、なぜかまた胸がざわめいた。何なんだ、さっきから一体。

「さーどうする次元?2対1だぜ」

 ルパンに言われ、俺はガシガシと帽子ごと頭を掻いた。

「…わかったよ。やりゃあいいんだろ?」

 チッと舌打ちしながら、煙草に火をつける。
胸いっぱいに煙を吸い込めば、ほんの少し胸のざわめきも治まった気がした。

「よーし、そうと決まりゃ早速打ち合わせだ。座れよ次元」

 ニヤリとルパンが笑った。
 どうやら今度の仕事も荒れそうだ。俺は小さく肩をすくめて打ち合わせに取り掛かったのだった。

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【なかがき】
つくづく味噌汁に弱いな、ウチのゴエちゃんは(笑)
でも侍って、食い物の恩義には篤いと思うんですよね〜
そして次元はもやもや悶えております(笑)
次回はいよいよお仕事にとりかかりますよ〜v

'10.04.20  秋月 拝

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