Reason to have chosen you

1

 ルパンから仕事の連絡があってから2日。
前の仕事から3ヶ月近くたつからそろそろだろうとは思っていた。
仕事の中身はまだ聞いていないが、どうせ暇を持て余していたところだ。
たまたま近くの町にいたこともあり、俺は予定よりも1日早く、アジトのある地中海に面した小さな田舎町に到着していた。

 どうせ誰も来ちゃいないだろうと思い、途中のスーパーで買い出しをしてからアジトに向かう。
ここのアジトは、ルパンがそこからの景観だけで選んだせいで、店が立ち並ぶ町の中心部からはかなり距離がある。
食料の買出しだけでも一苦労なのだ。

 アジトに着いたときにはすっかり日が暮れてしまっていた。
これではせっかくの景観も拝めないが、明日の朝には美しい海が見られることだろう。

「…うん?」

 アジトの脇に車を止めた俺は、建物に灯りが点いていることに気付いた。

「…ルパンか?」

 しかし、ルパンは仕込みがあるとかで、約束では明日の昼12時に来ると言っていたはずだ。
だとすれば五右ェ門か。だが、俺はこの仕事に奴が参加するかどうか聞いちゃいない。

「誰だ?」

 俺は気配を殺し、マグナムに弾が入っていることを確認してから玄関の脇に身を潜めた。
ドアを隔てた向こう側に僅かな殺気。

「誰だっ!!」

 ドアを蹴破り、人影に銃口を突きつけた。
タイミングは完璧。
しかし。

「!?」

 もう1歩踏み込みかけたのをすんでのところで踏み止まる。
 突きつけた銃口は確実に相手の額を捕えていたが、俺の首筋にも冷たく光る刀の切っ先が当てられていたのだった。

「…ちっ。何だ、脅かすなよ」

 刀の先から身をかわし俺がそう言うと、銃口の先にいた男も憮然とした表情を見せた。

「…それは拙者の台詞だ」

 チンッと音をたてて斬鉄剣が鞘へと収められる。
それを見て、俺の方もマグナムをしまった。
玄関先に立っていたのは五右ェ門だった。
何でも真っ二つ。怒らせると怖〜い、頼れる仕事仲間である。

「そのように殺気を放って玄関先に立たれたのでは、斬られても文句は言えぬぞ」
「悪かったな。まさかお前が先に来てるとは思わなかったからよ。お前もルパンに呼ばれたのか?」
「うむ。2日程前に連絡があってな。仕事だからとここに来るように言われたのだ」

 ならば俺と同じということである。
最も俺のほうは五右ェ門が来るとはちゃんと聞いていなかったから、てっきり俺を狙った殺し屋か何かかと思ったのだ。

「おぬしが来るのはルパンから聞いていたが、まさかこれほど早いとは思っておらんかったからな」

 拙者を狙った輩の仕業と思ったのだ。
涼しい顔をしてそんなことを言う。
なるほど。お互いに勘違いをしていたわけである。

「まったくな」

 俺は1度車まで戻ると、買い出しの袋を提げて戻る。

「お前、メシは?」
「まだだ。修行先からそのまま来たのでな。
とりあえず先に風呂に入っておったのだ」

 言いながらくるりと背を向け、廊下を歩き出す。
なるほど、言われてみれば黒い髪はまだ濡れたままだった。
荷物を抱えたまま俺もその後を追う。

 不意に、白い項が視界に入った。
いつも思うが、どうもこいつは男にしちゃ色気がありすぎると思う。

「…おまえ、ちっと痩せたんじゃねぇか?」
「そうか?」

 本人にその自覚は無いらしいが、多分間違いない。
ただでさえ細身のくせに、着物の襟元から覗く体つきは一段と締まったようにように見える。
人間離れした修行生活を3ヶ月もすれば当たり前だとは思うが。
まぁ、修行明けの侍なんかいつもこんなものだ。
そのせいで野生の獣のような、触れるものを許さない空気を纏うのも。

「どうせロクなもん食ってなかったんだろう?作ってやるから食って、さっさと寝たらどうだ。
ちゃんと和食の材料も買ってきたんだぜ。たいしたもんは無かったけどよ」
「本当か!?」

 パッと振り向いた五右ェ門が、俺に満面の笑顔を見せた。
 さっきまでの野性味はなりを潜め。
あまりにも無防備で、あまりにも無邪気なその笑顔に、思わずドキリと胸が高鳴った。

「どうかしたのか?」

 急に足を止めた俺に、五右ェ門が怪訝な顔を向けた。

「ああ、いや、なんでもない」

 今のは何だったんだ?
なんとも言えないもやもやした感情が渦巻く。
いくら珍しいものを見たとはいえ、男の笑顔にドキッとするなんざどうかしてるぜ。

 前からこういうことはちょくちょくあったのだが、気のせいだと思っていた。
3ヶ月も会わなければそんなこともなくなると思っていたのだが、どうやらそうでもなかったようである。
 俺はブンブンと頭を振ると、さっきの笑顔の影を振り払った。

「次元、拙者、大根の味噌汁が飲みたい」
「…ここをどこだと思ってんだ。日本じゃねぇんだぞ。せいぜいニンジンくらいでガマンしろや」

 ウキウキとした表情を見せる侍に言い置いて、俺はエプロンを探しに部屋へ向かったのだった。

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【なかがき】
ついに始めちゃいました。次元が恋心を自覚するまでのお話です。
くっつくとこはまだ先になりそうで…どこでくっつくかは作者にも不明です…(爆)
気長にお付き合いくださいませ〜

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