簡単な仕事のはずだった。マフィアのボスの経営するカジノに忍び込み、売上をがっぽり頂く。
話を持ってきたのは不二子。そこでキナ臭さを感じ、1度は降りようかと思ったが、ルパンに説得された。
「そおんなこと言わないでよ次元ちゃん。かわいい不二子ちゃんの為だからさ。ね?ね〜?」
不二子に骨抜きにされたニヤケ顔でそんなことを言う。
「お前、ほんとに懲りないよな。そうやって何回あの女に騙されたと思う?
この間だってそのせいで五右ェ門が大怪我したじゃねぇか」
「裏切りは女のアクセサリーよ、次元ちゃん」
しれっとした顔でそんなことを言う。どこまで本気かわからないのだから始末に終えない。
「な?頼むよ次元。今回は五右ェ門もいないんだ。お前に降りられちゃ困るのよ〜」
そう言われたら次元は黙るしかない。五右ェ門が参加しない原因は自分のせいなのだから。
あの夜のことがあってから、五右ェ門は修行に出たきり帰ってこない。
ルパンが1度呼び戻しにわざわざ出かけたらしいが、そのときはけんもほろろに追い返されたらしい。
…もしかしたらもうここには戻ってこないつもりかもしれない。いや、きっとそのつもりなのだろう。
「…わかったよ。やりゃいいんだろ?」
次元は諦めたように承諾した。
そして、その挙句がこのザマだ。
「ったく不二子の奴、毎度毎度よくやるぜ。今度会ったらただじゃおかねぇからな!」
マグナムに弾を込めながら、次元は毒づいた。その間にも身を潜めた壁に向かって銃弾の雨が降り注ぐ。
不二子はルパンたちだけとでなく、相手マフィアとも繋がっていたのだ。
情報をリークされたルパンたちは、完全におとり役としてマフィアとやりあうハメになってしまった。
今頃不二子の方は悠々と金を盗み出し、どこかへトンズラしていることだろう。
そう考えると、次元ははらわたが煮えくり返る思いだった。
「…お前のせいだからな」
隣でワルサーの引き金を引くルパンに、次元は八つ当たりのように毒づいた。
「悪かったって。後でちゃんとお詫びすっからさ。ま、こっから生きて帰れたらだけどな〜」
なんとも緊張感のない顔でぬふふふと笑う。全くどこにそんな余裕があるのか。
「生きて帰れるようになんとかしろ!!俺がここをなんとかするから車でもヘリでも回して来い!!」
次元の提案に、ルパンは難色を示した。
「けどよ…」
「2人でここにいたってしょうげねぇだろ!」
銃撃の合間を縫って壁から身を乗り出し、マグナムで手前にいた狙撃手を3人、地面に沈める。
「今だルパン!走れ!!」
次元が叫ぶのと同時に、ルパンが飛び出す。
「待ってろ次元!必ず助けにくるからな!!」
走り去っていく赤いジャケットに襲撃が及ばぬよう、さらに2人の男を黙らせる。
「さて…」
大見得を切って任せろなんて言ったはいいが、どうなることか。なんせ次元には残弾の少ないマグナムが1丁あるきりなのだから。
こんなとき五右ェ門がいたら。
不意にそんなことを思い、次元は舌打ちした。この非常事態に何を考えているのか。
だが、銃弾を見切れるという奴の特技は、こういうとき頼りになる。
そんなことを考え、次元は自分の甘さにもう一度舌打ちをした。
あの結末を予想しなかったわけではない。それでも選んだのは自分なのだ。
誰を攻めることも、むろん五右ェ門を攻めることなど出来るわけもない。
「何事もケリは自分でつけねぇとなっ!」
ガウン!と火を噴いた銃弾が、また1人、男を地面に沈める。
この仕事が済んだら、迎えに行こうか。こんな状況にも関わらず、ふとそんなことを次元は思った。
「ケリは自分でつけねぇと」
いまさら五右ェ門に合わせる顔なんかどこにも無いが、それでも1度でいい。きちんと会って話がしたかった。
どこに居るのか、ルパンなら知っているはずだ。
「五右ェ門」
思わず、その名前が口から零れた。
と、そのとき。背後の壁越しでないところからの殺気を感じた。
「!?」
ほぼ条件反射的に身体を捻ると肩口を銃弾が掠めていく。
「ちくしょう!」
どうやら周りを囲むビルのどこかから狙われたらしい。
このまま身を隠すものが無い状況はかなりマズイ。
慌てて別の物陰に移ろうとしたその時。
ガウン!!
ぶん殴られたかのような衝撃に身体を運ばれ、次元は無様に地面に転がった。
熱と痛みで意識が飛びそうになるのをこらえ、弾の飛んできた方向に向かって引き金を引く。
悲鳴と、何かが倒れる音。どうやら命中したらしい。
「…ドジったぜ…」
額を脂汗がつたい落ちる。
今まで何度と無く撃たれたことがあるが、今回の傷はヤバイ部類に入りそうだ。
傷は右の脇腹。傷の深さよりも、出血が多いほうが問題だった。
押さえた手がみるみる鮮血に染まっていく。
次元の脳裏に、走り去っていく赤いジャケットと、そして何故だか五右ェ門の白い横顔がチラついた。
「冗談じゃねぇ…。お前に会わずに死ねるかよっ…」
視界がかすみ、敵がどこにいるのかも良くわからない。
音だけを頼りに闇雲にマグナムを撃てば、残弾はあっという間に底をついた。
「次元ーっ!!!」
どこからか名前を呼ぶ声が聞こえたような気がして、そして次元は意識を手放していた。
【なかがき】
お待たせしました!やっとウチのジゲゴエくっつきます。
かなりベッタベタすぎる展開ですが、お付き合いいただければと思いますのでよろしくお願いします。
'10/07 秋月 拝