俺はずっとお前と走っていたい。雨の日も風の日も、例えこの身体が動かなくなっても、
――――ずっとずっと、お前と共に。
*Like sick*
―――――忌ま忌ましい。
俺は心の中で毒づきながら、舌打ちする。
身体が怠い。
頭が痛い。
喉がカラカラで全身が熱い。
――自分はどうやら風邪をひいたらしい。
『次元、大丈夫か?』
熱を出した本人よりも先に自分の体調の異変に気付いた相棒―ルパン―がジャケットを脱いでシャツを腕まくりをした格好で部屋に戻って来た。
――――お前、絶対それ熱あるって!い〜いから寝てなさいよ
言われるまで、全く気付かなかった。道理で何かフワフワクラクラすると思っていたのだが。
――――いいから、俺様に任せときなさいって
そう笑顔で片目を閉じて俺をベッドへ押し込んだルパン。
家事なんかできるのか?と心配していた奴が作ったお粥は意外なほどめちゃくちゃうまくて
(“食べさせたげる〜♪“というお約束の申し出は全力で拒否した)
そして今、洗い物に風呂掃除までして、俺にレモネードを持って戻って来たルパンの優しい笑顔に俺は何故かひどく寂しい気持ちになった。
『次元、どしたの?』
俯いてしまった俺に不思議そうに声をかけるルパン。こんなのは熱のせいだ、いつもと違う自分の状態が沈み込んだ思考を更に下へ下へと追いやる。何故かひどく心細くてたまらなかった。
―――お前のために、できることがないと不安になる。
『次元?』
そんなこと、本当は分かってる。
俺にできて、こいつにできないことなんてない。
俺がいなくたって、ルパンはーーー
『ま〜〜た下らないこと考えてんだろ』
うまく働かない頭のまま暗い思考の淵に沈みそうになった俺に覆いかぶさる優しい体温。
『お前は何にも心配しなくていいんだよ』
―――めったにない、俺様に甘えるチャンスよ?
頭を抱えられ耳元で低く優しく告げられる言葉。
いつにないマイナス思考に陥る自分と、それを甘やかすルパンの仕種に急に恥ずかしくなって慌てて奴の身体を押し返す。
『うつるから、止めろ…っ』
『うつらない、うつらな〜い♪』
――次元ちゃんたら心配性ねぇ〜
笑いながら俺から離れようとしないルパンを引き離そうとジタバタとしていたら、その拍子でぶつかったサイドテーブルから何かがコトリと落ちた。
見遣るとそれは愛してやまない俺の煙草で。
―――そういえば今日は一本も吸っていない。
それさえ気付かなかったなんて、自分はやはり余程おかしいらしい――それでも気付いてしまったら
『今はダメだぜ、次元』
思わず手を伸ばしそうになった俺の心中を見透かしたようにルパンが笑う。
『喉痛めてるかもしんない時に煙草はねぇだろ?』
分かってる、そんなの分かってはいるんだが
『でもよ、一本くらい……』
『おまえねぇ……』
諦め切れず言い募る俺にルパンは呆れたように眉を下げる。だってしょうがねぇだろ、こんなに煙草を吸わなかったことなんて赤ん坊ん時以来だ。気づいてしまえばもう吸いたくて仕方なくなる。そんな俺の上でルパンは何か考えるような素振りで上を見上げ、そして何かを思い付いたように笑い、ベッドから下りた。
『ルパン……?』
呆れ果ててしまったのか、と不安になった俺の前でルパンは床から俺の煙草を拾った。そしてゆっくりとその中から一本を引き出し火を点ける。俺の目の前でゆらゆらと点る焔、ふわりと上がる紫煙。長い指がそれを奴の口元へと運ぶ。伏せた目元、笑みを浮かべた口元を覆う大きな掌。ルパンのそのどこか優美にさえ見える一連の仕草と佇まいに俺が目を離せずにいると、ふとルパンが口元から煙草を離し、こちらに視線を寄越した。――――奥の奥まで覗き込まれているようなこちらを挑発する強い眼差し。
その視線だけで、痛い位にこの心臓は脈を打って、
『――――?!!!』
ルパンの雰囲気に呑まれていると―――伸びてきた腕に強引に身体を引き寄せられ、いきなり深く唇を塞がれる。突然のことに、思わずルパンの胸に手をやり、その身体を押し返そうとするが、びくともせず逆に腰に回された腕に更にきつく抱き込まれる。そして、少し離した唇の間から目線も逸らさずに告げられる低く密やかな言葉はーーー
『いいのか?しばらくはもう吸わせてやらねぇぜ?』
そのまま、また唇を塞がれて、
馴染んだ煙草の匂い。
低く響く男の声。
混じる近すぎる体温。
飲み込まされる吐息。
抗えない。
抗えるはずがない。
もっと
もっと、近くに。
欲しい
本当は、
いつだって。
欲しくて、たまらないんだ。
初めは突き放そうと添えられていた俺の手だったが、いつしかそのまま奴の首に回り、引き寄せ、その唇を紫煙ごと夢中で貪る。もどかしくて、まだ足りなくて、熱い身体を擦り寄せ、目の前の存在を必死でねだる。
与えられるものは全て、
奪えるものも全て、
ひとつ残らず、享受しようと。
**********
『…………殺す気か』
ベッドの上でぐったり横たわりながら、サイドに腰掛け俺の煙草をふかすルパンに思わず恨み言をこぼす――1日ぶりの喫煙は少々刺激が強すぎたようだ。というより、あんな吸わせ方があるか。
『まーまーいいじゃないの、俺にだってこれくらい役得があっても』
―――俺様だって辛いのよ?
眉を下げて、そんなことを言うから『何のことだ』と半分身を起こすと、伸びてきた指に開いたシャツの胸元をゆっくりと撫でられる。
『………っ…ルパン…っ』
何かを呼び起こすその仕草。震えそうになる身体をごまかし、俺が抗議の声をあげると
『………はだけた胸元。汗ばんだ身体、上気した顔、潤んだ目元。』
――――色っぽすぎるのも時には罪だぜ、次元ちゃん?
『…………っ?!!!』
我慢してるんだよねぇ、これでも
目を見開く俺に、困ったように笑いながら、おどけた口調で話す。
それでも隠しきれない欲を孕んだ真摯な瞳に、浅ましくもそれを欲しがる自分を曝されて、いたたまれなくなる。
『馬鹿か…っ』
『あら、風邪ひいて寝込んだおまえと、健康で甲斐甲斐しくおまえの看病をしてる俺。どっちが馬鹿かしら?』
その自分の動揺を隠す為に咄嗟に憎まれ口を叩くが、即座に切り返され言葉に詰まる。手が出せねぇ仕返しかよ、大人げねぇ。
俺が思わず睨むと、ルパンは軽く笑い当たり前のように言った。
『ま、もうすぐ次のヤマも控えてる。なるべく早くよくなってくれよな。』
ルパン様の隣はやっぱりお前だろ?
なぁ、相棒?
――俺の存在を肯定するその言葉、その笑顔。
『………ったりめぇだ。俺を誰だと思ってるんだ?』
『さ〜〜すが、次元ちゃん♪』
心が軽い。
あぁやっぱり俺はお前が―――
『まぁ俺が手厚〜〜く看病してやっから安心して?』
『いらねぇよ、すぐ治る』
軽口を続けるルパンに笑いながらそう言うと
『……治ったら、覚悟しとけよ?』
―――ルパン様を我慢させた罪は重いぜ〜?
そんな風にいつだって。
油断をしてれば軽い口調に織り交ぜながら、切羽詰まった感情を伝えてくるから、俺はどうしようもなくなる。
俺だって、お前が、俺のほうが、お前を
――覚悟?そんなのは
『………望むところだ』
俺が目を逸らすことなくそう告げると、ルパンはびっくりしたようにひょいと片眉を上げ、次いで鋭い眼差しでこちらを見据え不敵に笑った。
『……上等。その言葉、後悔するなよ』
同時に下りてくる、言葉とは裏腹な優しい口づけ。
ゆらゆらと優しく撫でる掌にあやされて。俺は少々物騒なことを考えながら眠りにつく。
―――そっちこそ、ここまで煽っておいて、人が寝込んでる間に余所で発散なんかしやがったら、その眉間に鉛玉ブチ込んでやる。
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心が軽い。
明日にも走れそうな気がした。
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***ずっと『好き』が治らないの
fin.
『あれもこれも夢じゃないぜ』の真史様より、相互リンクの記念に頂きました!!
リク内容は風邪引いた次元さんを看病するルパン様だったのですが、読みながら鼻血噴きそうになったのはワタシだけではないはず…!!←
口移しで煙草を吸わせちゃうルパン様…!!風邪引いて気弱になってるとはいえ後ろ向きすぎる次元さんも…!!
何もかも萌え!!!!
真史様の書かれるものはイラストもSSも本当〜〜〜に素敵で、ル次のラブラブっぷりが大好きですvvv
ル次万歳!!
真史様、素敵な素敵な作品を有難うございました!!これからもどうぞよろしくお願いします!!