おそろい

「ふざけんな!! 冗談じゃねぇぞ! 俺は絶対やらねぇからなっ!!」

 ルパンたちが顔をそろえているというので、修行の合間に最寄のアジトに立ち寄ることにした五右ェ門は、 玄関を開けて途端にそんな罵声に出迎えられた。

「…何を喚いておるのだ、次元?」

 五右ェ門は眉間にしわで呻くが、声の主はそれ以上に憤懣やるかたないというった表情で、ルパンと対峙していた。

「ごえも〜〜〜ん! 助けてくれよ、次元がさぁ…」
「五右ェ門、こいつの話に乗るんじゃねぇぞ! どうせまた不二子に騙されてるんだからな!!」
「……次の仕事の話か?」

 そのやり取りだけで、五右ェ門はおおよその事態を把握した。 つまりは、それくらいに日常茶飯事の光景であるともいえるだろう。
 話なんか聞かなくて良いと言い張る次元を諌め、なんとか室内に落ち着き、ルパンの仕事の話というのを聞くことができた。 それによると、ルパンが不二子に頼まれた次の仕事というのが、とある指輪を盗むことだった。

「不二子殿が欲しがるということは、高価なものなのだろうな」
「ん〜、それがどんなものかまだわからねぇんだわ」

 聞けば、なんとかという(横文字の苦手な五右ェ門には、舌を噛みそうな名前だということぐらいしか分からなかった) 有名な宝飾デザイナーが、今度『珍しいペアリング』を発表するのだという。

「珍しい? 何が」
「それがわからねえんだ。なんかこう奇抜なデザインだとか、 めちゃめちゃ高価な石がついてるとか、いろいろ憶測は飛び交ってるんだけっどもがな」

 その実態はいまだ謎なのだという。そして。

「で、そんなに珍しいモンならきっと凄くいいもんだろうというのが不二子の言い分だ」

 横からむっすりとした顔で、次元が口を挟んだ。

「そ。で、盗ってきたら俺様とおそろいのペアリングしてくれるっていう約束なんだもんね〜」

 デレデレと鼻の下を伸ばすルパンと、それを面白くなさそうに睨む次元。

「なるほど」

 話の経緯は分かった。

「で、五右ェ門ちゃん…」
「生憎だが拙者は参加せぬぞ」
「えええええ!!?? なんでっなんでっ!?」

 さらりと答えれば、ルパンはこの上なく情けない顔になる。

「拙者まだ修行中。今日ここに立ち寄ったのも、おぬしらに近況報告をするためだ」

 五右ェ門の言葉にルパンは溜息をつき、そして、対照的に次元はニヤニヤし始めた。

「残念だがルパン、今回は1人で行ってくるんだな」




*  *  *  *  *  *




「ふざけんな!! 冗談じゃねぇぞ! 俺は絶対いらねぇからなっ!!!」

 半月ほどの後。修行を終え、再びアジトを訪れた五右ェ門を迎えたのは、既視感的な光景。

「…拙者の覚え違いでなければ、先日も同じようなことをしていたような気がするのだが…」

 眉間にしわでそんなことを唸ると、その脇をすり抜けて次元が脱兎の如くアジトを飛び出していった。

「五右ェ門! ルパンにそれ返してくるように言っとけ!!」

 ドップラー効果をつけて放たれた言葉に、意味の分からない五右ェ門はまた唸るしかない。

「……何なのだ、一体」
「いやー、それがさぁ聞いてよ、五右ェ門ちゃん」
「一体どうしたというのだ」

 玄関先に現れたルパンは、心なしかしょんぼりとしている。

「何だ。また仕事の話でもめておるのか? そういえば先日言っておった指輪はどうしたのだ。盗んできたのではないのか?」
「盗んだのは盗んだんだけどね」

 ほら。そう言って目の前に出されたのは二つの指輪。 普段装身具になど縁のない侍だが、見たところ普通の指輪にしか見えない。 奇抜なデザインが施してあるわけでもない。はまっている石が高価かどうかはわからないが。

「それがどうしたのだ? 何か問題でもあるのか?」
「五右ェ門ちゃん、ペアリングってのは普通、恋人同士がおそろいでつけるもんなのよ」

 わかる? そう聞かれ、五右ェ門はますます怪訝な顔になる。

「それぐらいは分かるが…だからどうしたというのだ」
「いい? 恋人同士でつけるんだよ? 例えば俺と不二子ちゃんが一緒につけようと思ったとしてさぁ、この指輪、でかくない?」
「……ああ、そういえば」

 よく見れば、二つの指輪は二つとも同じ大きさをしていた。 ルパンがするのはともかくも、不二子の華奢な指ではすっぽ抜けるのがオチだろう。

「これね、両方とも男物なんだわ」
「…つまり…?」
「これ、つまりは同性愛者用」
「…ああ、成程」

 作ったなんとかというデザイナーも男色家だったのだろうか。

「それで『珍しい』ということになるのか?」
「まあ多分そうだろ。同性愛者用のペアリングなんか、そうあるもんじゃねえだろうし。 それを有名なデザイナーが名前も変えずに発表するってんだから、そりゃ話題にもなるわな。…で、不二子ちゃんはカンカン」

 それはそうだろう。男物の指輪が二つあったところで、彼女には何の役にも立たないのだから。

「それで、仕事の結果は分かったが、それで何故次元が怒るのだ?」

 不二子が不機嫌で飛び出していったのなら分かるが、さっき飛び出して行ったのはこの仕事になんら関わっていないはずの次元。

「ん? いや、じゃあ折角だから、次元ちゃんと俺でおそろいにしようかと思ったんだけっどもがねー…」

 死んでもイヤだって、怒られちゃった。そう言って、屈託のない子どものような顔で言う。

「………不憫な奴だ…」

 五右ェ門は、今ここにはいない黒衣の男の姿を思い出し、その心情を思いやって小さく溜息をついた。

fin.
恋物語10のお題より 6.ペアリング

【あとがき】
たまにはバリバリのギャグを書けたら、と思っての挑戦だったのですが、合えなく玉砕しました…
結局次元ちゃんが不憫になって終了。ゴメン、次元ちゃん…;;
ギャグって難しいですね…お付き合いいただきましてありがとうございました!!

'11/03/04 秋月 拝

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