成功した仕事の後の酒と煙草は格別だ。
ずっとそう思っていたし、今後も一切その思いが変わることはない。けれど最近になって、もう一つ格別に入れてもいいと思う物が出来てしまった。――――不覚にも。
「ん…ふ…ぁ」
アジトの玄関にルパンと2人、もつれるようにして転げ込んだところでむしゃぶりつくようにして唇を重ねた。息継ぎの合間に漏れる吐息が狭い玄関に響く。靴を脱ぐのももどかしく、蹴散らかしてリビングへと転がり込む。仕事の準備の間ずっとはぐらかされっぱなしだった身体は一度火が点いたら止まらない。
(あー…たまんね…)
蕩けた頭からは一番最初にキスした瞬間に理性など吹っ飛んでいる。ソファに帽子を転がしジャケットを脱ぎ捨てた。同じようにネクタイを外すルパンにしがみついて更に先を求めるが、小さく肩を押し返して『待って』と言われた。
「何」
「ベッド行こ」
そんなこと…。なんなら今すぐこの冷たいリビングの床の上で襲ってもらっても構わないくらいの勢いをはぐらかされて、思わず次元は恨めし気にルパンを睨んだ。
「んな顔すんなって」
苦笑しながら、ルパンはしがみつく次元をひょいと抱え上げると、そのまま寝室のベッドへと担ぎ込む。雪崩れるようにして倒れ込んだベッドが急激に2人分の体重をかけられて悲鳴を上げた。
「…んでお前そんな余裕なんだよ」
上気した赤い顔で次元はむくれる。自分だけがキスだけで蕩けて高ぶらされているという現状が酷く癪だ。恥ずかしさ半分悔しさ半分で恨めし気に睨むとルパンは笑った。その大きな手を伸ばし、次元のワイシャツを寛げながらゆっくりと圧し掛かってくる。
「余裕なんてねえよ」
どこにも。そう言われて、自分の腿に押し付けられるルパンが、スラックス越しにもわかるほどに熱く質量を持っているのに気付く。その感触に、身体の芯がずくりと疼くのを感じた。たまらない。物欲しげに鳴ってしまった喉の音に、ルパンがまた笑った。
「随分積極的だこと。そんなに溜まってたの?」
「うっせ…お前が仕事に熱中しすぎなんだよ」
茶化すような物言いに益々むくれて見せるとルパンが『悪い悪い』と笑う。
「…お待たせしてた分、お望み通りたっぷりアイシてやるからよ?」
ぞくりとするほど艶めかしい声に耳元で囁かれて鳥肌が立った。にやりと次元を見下ろしてくる黒い瞳には、ぎらついた欲望の色。そのことに少しだけ安堵しつつ、次元は自らルパンの唇にむしゃぶりついた。
シャツを脱がされ、肌蹴られた首筋にルパンの唇が下りてくる。鎖骨を強く吸われて思わず悲鳴のような声を上げた。這い回る掌が身体中に残る傷跡をなぞる。まだ一度も触られてもいないはずの自身がじわりと濡れて下着を汚していく。
早く、早く、欲しい。そのことで頭がいっぱいでどうしようもない。いつからこんなになってしまったんだろう。一瞬そんな思いがよぎるがすぐにどうでも良くなった。
痛いくらいに主張しているのが苦しくて、自分でベルトを寛げてスラックスを下着ごと下ろすと、はちきれんばかりに膨らみ、快楽の期待にしとどに濡れたものが顔を出す。その熱を眼下に今度はルパンがごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。
「早く…」
「待てって。怪我すんのはやだろ?」
片方の手で胸を弄りながらもう片方で乱暴にサイドボードの引き出しを探るルパン。見つかった冷たいローションをいきなりとろりとたらされて次元はキュンと身を竦める。
「冷てぇ」
「悪い」
思わず上げた抗議の声も、だがすぐに甘く溶けた。
「んぅ…」
期待に緩みかけていたそこにくぷりと潜り込み、細く長い指が器用に次元を拓いていく。それに合わせて堪えようともせず感じるままに声を上げた。
「ふ…ぅん…ルパ…あ、あ、そこ、もっと…」
「キモチ?」
「ん、きもち…すげ…」
「いつもそれぐらい素直だったらいいのに」
「るせっ…ぁ、あ、んぅ」
仕事終わりは特別なンだ。吐息と共に切れ切れにそう言うと、しがみついたルパンの身体が小さく揺れた。どうやら笑っているらしい。
「お前だってそだろ?」
「ま、な」
いつもならゆっくりと焦らすようにもっともっとゆっくり次元の身体を解すルパンも、いつも以上に直接的で乱暴で。命を懸けた緊張の糸が切れた反動なのか。上がり切ったテンションは容易には収まらない。互いにこの昂ぶりきった熱を吐き出しきるまでは。
「イイ?」
情欲に煙った瞳が自分を欲しがっている。自分もまた同じ瞳をしているに違いない。
「も、も、早く…っ!」
答えるが早いかずくりと侵入を始める熱と質量にぞくぞくと鳥肌が立ち、ようやく与えられたそれに身体中が歓喜の声を上げた。
「あ、あ、あ、あ……!!」
それだけで世界がふっ飛びかけた。どうしようもなくびくびくと跳ねる腰にルパンも呻くのが耳元で聞こえて、辛うじて意識を繋ぎとめる。部屋中に響く荒い吐息がどちらのものなのかもうわからない。律動にあわせてぎしぎしと悲鳴を上げるベッドの音にすら興奮する。
もう何も考えられない。
何が何かも良く分からないまま、夜が白むまで2人でただひたすらに快楽を貪った。
まさか男に抱かれるのを格別に思うようになるなんて。
本当に―――――不覚すぎる。
Fin.