ぐらり。と、世界が音をたてて変わっていく。
その一挙手一投足が気になるようになったのはいつの頃からだったろうか。
その黒い瞳が、こちらを向くだけでどきりと胸が高鳴る。
その厚い唇が、甘い煙草の煙を吐き出すのを感じるだけで息苦しくなる。
その長い指が、しなやかに銃を扱うのを見るだけで眩暈がする。
その普段隠された顔が、ふっと微笑むだけで俺は世界の全てをも敵にまわしてもいいとさえ思う。
その全てが。お前の全てが欲しいと願ってしまうこの感情の正体を俺は知っている。
だがそれが決して報われることがないことも、同時に俺は知っている。
それでも。
「ルパン? どうした? ボーっとして」
「…あぁ、いや、何でもねぇよ」
その声を聞くたびに。
「ホントか? さっきからおかしいぜ、お前。…おい、ルパン聞いてるのか?」
その甘いローバリトンで名前を呼ばれるたびに。
「…うるせぇよ」
心が締め付けられて、切なくて。
手を伸ばせば届く距離に居るお前を、無理矢理にでも俺のものにしてしまいたい欲求が鎌首をもたげてきて。
苦しくて、苦しくて、苦しくて。
「ルパン?」
ふっと、その視線に不思議な感情が宿るのが分かる。本当は、気付いているんだろう? 俺の気持ちに。
お前が、好きだ。
好きで、好きで、好きで、どうしようもない。このまま狂ってしまいそうなくらいに。
「次元」
「ん? 何だ?」
「いや…」
「…変な奴」
次元。俺はお前が、好きだ。
お前を手に入れることができるのならば、俺はなんだってするぜ? なぁ次元。
* * * * *
がらがらと、音をたてて世界が変わっていった。その視線の意味に気付いたときから。
その黒い瞳が、こちらを向くだけでどきどきと胸が高鳴る。
その唇が、癖のある煙草の煙を吐き出すのを感じるだけで息苦しくなる。
その長い指が、しなやかに金庫を破るのを見るだけで眩暈がする。
その飄々とした顔が、時に獣のような鋭さを魅せるだけで俺はぞくりと身体を震わせる。
その全てが。お前の全てが欲しいと願ってしまうこの感情の正体を俺は知っている。
だがそれが決して報われることがないことも、同時に俺は知っている。
そのはずだったのに。
「おい、次元? どうした?」
その声を聞くたびに。
「じーげーん。さっきからおかしいぜお前。ぼーっとしてさぁ」
その特徴的な甘い声で名前を呼ばれるたびに。
「うるせぇよ」
不意に伸ばしてしまいそうになるこの手を必死に押さえ込む。
心が締め付けられて、切なくて。苦しくて、苦しくて、苦しくて。
こんなにも近い距離が、今はただ恨めしい。いっそのこと、もっと遠ければよかったのに。
「次元? 大丈夫か?」
ふっとお前の視線によぎる感情に、気付かないと思っていたのか?
いや、お前のことだ。気付かれるのも計算のうちなのかもしれないけれど。
お前が、好きだ。ルパン。
好きで、好きで、好きで。どうしようもなくて、狂ってしまいそうなくらいに。
「…ルパン」
「ん? 何だ?」
「…何でもねぇ」
「…変な奴」
ルパン。俺はお前が、好きだ。
気付かないほうが幸せだったのだろうか? その答えはお前しか知らないんだぜ? なぁルパン。
fin.
恋物語10のお題より 10.あなたが好き
Fin.
【あとがき】
かなり短めになってしまいましたが、ちょっとシリアス風味に仕立ててみました。
くっつく前、ル→→←←次くらいの距離感で読んでいただけるといいかな?
気付いているけど言い出せない。そんなもどかしさが少しでも伝わればいいなと思います。
'11/05/09 秋月 拝