and more...

 俺様世紀の大怪盗ルパン三世。狙った獲物は何だって手に入れる、神出鬼没の大泥棒。それが俺様さ。この世界に俺の自由にならないものはない。そうなんだって。
 …そんな俺様にも悩み事はある。目下次の仕事のことよりも、今度の不二子ちゃんとのデートのプランなんかよりももっと重大な悩み事があるのだ。え? そんな風には見えないって? ひでぇことを言うもんだ。こう見えても俺様結構ナーバスなのよ? …そんなにあからさまに信じられねぇって顔するなよな…。

「おい、どうした。柄にもなく真面目な顔しやがって」

 ひょい、と覗き込まれて声をかけられた。目の前に居るのは長年連れ添った俺の相棒、次元大介。0.3秒の早撃ちの腕を持つ世界一のガンマン。一見クールに見えて、実は結構情熱的で義理堅い、そんな最高の男。もちろん仕事のの関係だけじゃないんだけども、あんまり言うと怒られちまうからここだけの話にしておこう。でも俺の悩み事はそれに関係するんだよね。

「柄にもなくってのは余計じゃねぇの?」
「だってそうだろ。いっつも締まりのない猿顔のくせに」
「…次元ちゃんってひどいこと言う…」

 よよ、と泣き崩れてみるが、あっさりと肩をすくめられた。

「なに馬鹿なことしてやがる」
「ひどいよー次元が俺を苛めるー」
「あーもう、わかったわかった、あっち行ってろよ」

 俺の顔も見ずに犬でも追いやるかのようにしっしっと手を振られたのでは、さすがの俺様だって傷つくってもの。あまりにつれない態度。これだから俺が柄にもなく真面目な顔して悩むことになるのよ? 次元。分かってんの?

「なぁ次元」
「んだよ?」
「お前さぁ、俺のことアイシテないの?」
「なっ……」

 じっと見据えて発した言葉に、次元は瞬時にして真っ赤になる。よほど質問の内容が衝撃的だったのか開いたままの口をぱくぱくさせる有様は、あまりに子どもっぽくて滑稽だ。少なくともこの顔だけ見たのでは、誰もこの男が世界一のガンマンだとは思わないだろう。

「な、何を突然…!」

 あからさまな狼狽を見せてくれた次元がちょっとだけ愛しかったりするけれど、だからと言って質問の答えをうやむやにされるわけにはいかない。俺の悩みは結構深いのだ。

「ねぇ、応えてよ」
「いやだから…なんでそんな…」

 じりと真顔でにじり寄れば、次元はうっと言葉を詰まらせて下がる。

「だって次元そういうこと言ってくれたことねぇじゃん」
「そう…だっけ…?」

 まぁ確かに皆無ではないけれど。こいつと関係を持つようになってから結構経つというのに、そういう言葉をかけられたのはまだ両手で数えられるくらいだと思う。次元のほうからそういうことを言ってくれたのは。それが俺の最近の悩み事。
 別にこいつの俺に対する感情を疑っているわけではないし、そういう感情表現が苦手な男だって言うことも充分すぎるほどに承知している。伊達に長年付き合ってるわけじゃないんだ。でもやっぱり無性にそういう言葉を聞きたくなるときがあるのも、男なら特に分かってもらえるんじゃねぇかなぁ。言っとくけど無茶な要求してるわけじゃないんだぜ? こうも一方通行じゃあ不安にだってなるでしょう。俺ばっか好きみたいとか、なんかちょっと悔しい。恋人からのスキとかアイシテルって言葉には、男をその気にさせる魔力が詰まってるんだ。
 それに。

「ちゅーとかもさぁ、お前からしてきたことないじゃん?」

 ましてやその先のことなどなおさらで。いつだって求めるのは俺のほうで、さすがにこれもどうかと思うわけよ。長い付き合いの中で一度もないのだから、これってさすがに男としての沽券に関わることだったりするわけで。俺ってそんなに魅力ない? とか思っちゃうじゃんか。

「ばっ…!!!! 何言って……!」

 かぁっとさらに赤くなる次元を壁際に押し付けた。帽子の下から覗き込むようにして黒い眼を見つめれば、狼狽えたように瞳が揺れる。

「聞きたいな…次元? どれくらい俺のこと好きか、教えて?」

 そっと囁けば、固く結ばれたその唇から僅かに吐息が漏れた。それだけで揺れ動く心の中が手に取るように分かる。

「ルパン…」

 こいつはこいつで悔しいんだと思う。俺みたいな奴に心惑わされるのが。俺みたいな奴を拒めないでいる自分が。俺みたいな奴に心奪われてしまっている自分が。クールで気取り屋でロマンチストだけど、実は結構激情家だしプライドも高いし、自分から俺を求めるなんて俺に負けたみたいで許せないんだろう。全部、分かってるけど分かってやらない。お前が教えてくれるまで。その口で。

「たまには素直になれよ」
「誰が…!」

 キッと睨みあげてくる瞳に鋭さはない。ほら、だってお前は俺を拒めない。

「次元ちゃん、恋愛ってのは頭じゃなくて身体でするもんよ?」

 俺に迫られて真っ先に出てくるのが言い訳とか理屈とか、とにかく理論先行型で何かにつけても回りくどい男だ。言葉で壁を作って、必死で自分を隠そうとしてるんだろ? 傷つきやすかったり弱かったり幼かったりする自分を。そういうとこも全部知ってるし嫌いじゃないけど、たまには俺を欲しがって欲しい。そんなところも全部俺にさらけ出してよ。

 うわべだけの薄っぺらな愛は要らない。上っ面だけの甘ったるい言葉も要らない。もっとどろどろに俺を欲しがって? 俺を愛して? 俺はこんなにもお前が好きなのに。

「…っくそっ!」
「およ?」

 急に、ぐいっとネクタイを引かれた。ぶつかる勢いで唇が重なる。ぬるりと入り込んできた舌が俺の中でうごめく。その先をねだるキスに、俺も本気で応えてやる。そうそう、やればできるじゃないの?

「これで満足か?」

 離れた唇の間を唾液が糸のように伝うのがやけに淫猥に見えた。

「まだ足りないな」
「…欲深い野郎だぜ」

 言いながら次元の口元がにやりと歪む。そう、それでいい。

 もっと欲しい。お前の全てを俺にくれないか? もっと欲しがって。俺の全てもお前にやるから。だって俺は世紀の大怪盗ルパン三世。俺様の意のままにならないものなんかこの世界には存在しないのさ。なぁそうだろう? 次元。

fin.
恋物語10のお題より 9.KISS

【あとがき】
Kissをお題に。当然甘くなりそうなのが嫌で(へそ曲がりw)ちょっと違う雰囲気を目指したら、ただ単にルパン様がヤンデレぽくなってしまいましたwww(撃沈)
でも甘々ラブラブもいいけれど、たまにはもっとディープに求め合って欲しいななんて思いません?(聞くな)
読んでくださってありがとうございました!

'11/06/07 秋月 拝

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