World is ours

11.The place that I cannot hand over.

「このへんだった?それともこっち?」

 甘い余韻に身体を預けうつらうつらとしていたのに、そんなことを言われて、次元は重いまぶたを開いた。 くすぐったさを感じて足元を見やれば、足の先をルパンの手がたどっている。

「何が?」
「ん? 初めての男の勲章」
「…あぁ」

 言われてようやく思い至る。今日と同じ獲物を狙った時に出来た、初めての銃創。

「これ…かな?」

 次元は自分の左足、膝より少し上の辺りを指差した。

「思ったよりはっきりしないんだな」
「医者の腕がよかったんだろ。成長期だったし」

 身体中に残る無数の傷跡から比べれば、圧倒的に薄い傷跡。

「ふ〜ん」

 何を思ったのか、ついっとルパンがその傷に顔を寄せる。
 ぺロリと出された赤い舌がそこを舐めあげた。

「何…!?」

 動物が、傷ついた仲間にそうするように、丹念に舐めあげていく。まるでその傷を癒そうとするかのように。
 しかしながら、ついさっきまで濃厚な行為に及んでいたせいで、そんなことでも簡単に快感の名残に火がつきそうになってしまう。 もぞもぞと腰を引きかける次元に、ルパンがにやっと笑った。

「ん〜? 次元ちゃんてばまた俺に啼かされたいわけ?」
「!! …んなわけあるか!!」

 あからさまな物言いをされ、次元は真っ赤になって身体を離す。いくらなんでもこれ以上は身がもたない。

「ん〜でも俺のほうは元気なんだよなぁ〜」

 するりと手を引かれた先には、熱を持ったルパンの分身。

「おま…いい加減にしろよ。ちったぁ年上を労われ!」
「まぁそんなこと言わずにさ…舐めて…」

 熱っぽくうわごとのように囁かれれば、次元はそれに逆らえない。 位置を入れ替わり、ルパンの足の間に潜り込むと、存在を誇示し始めたその先端を口に含んだ。

「ん…」

 鼻にかかった声で、ルパンが呻く。 次元の硬い髪を、くしゃりとルパンの手が掴んだ。
 手でゆるゆると擦り上げながら舌を這わす。 弱いところも感じるところも、充分すぎるほどに知っている。

「っは…」

 零れたルパンの吐息が、ずんっと脳髄を痺れさせる。 何も考えられない。何も。
 もう無理、と言ったはずなのに、ルパンを愛撫しているだけで自分にも火がついていくのが分かる。

「ん…もういい」

 ルパンが次元の頭を押し返した。 限界まで怒張した分身は、別のものを求めている。

「入れていい?」

「…ダメって言ったってするんだろ」

 甘えたように囁いたルパンに、次元は苦笑する。
 ベッドの上に引き上げられ、組み敷かれる。 そこから見上げたルパンの瞳は、情欲に濡れて次元を見下ろす。 きっと自分もそんな目をしているのだろうと思ったら、それだけでまた熱が上がる。

「次元」

 熱っぽく囁かれ、唇を塞がれた。それと同時に熱いものが進入してくる。

「っは…!」

 重ねた唇の端から吐息が零れた。 2人の動きに合わせて、ぎしぎしと安宿のベッドが軋む。

「ルパ…あっ…」
「次元…!」

 口角からつたって落ちる唾液を舐めあげられ、首筋にも唇を落とされる。 いつもそうだ。甘く囁かれて抱かれれば、何もわからなくなる。
 それは時に、恐怖にも似た感情で次元を支配する。自分が自分でなくなっていくような感覚。ルパンに全てを支配される感覚。

「次元…お前は俺のものだぜ…たとえ親父にだってやるもんか…!!」

 耳元で囁かれる言葉の意味さえろくに分からない。分からないままにがくがくと頷く。
 ああそうだ。俺はお前のものだ。初めて会ったあの日から。そして誓ったんだ、あの夜に。 快感に飲まれて薄れていく意識の中で、ぼんやりとそんなことを考える。

「ルパン…あぁっ」

 伸ばした手でルパンの頭を抱き寄せる。 ああそうだ。俺はお前のもの。
 だが…。

「ルパンっ…!!」

 同じくらいに、お前を俺のものにしちまいたいってのは、可笑しいか? 気紛れにやって来てお前を誘惑していく不二子にだって、この位置はやりたくない。 ルパン三世の、"相棒"という位置だけは。 お前の隣を歩くのは俺だけでありたいと、そう思うのは、我侭なことだろうか。

「次元…」
「ルパンっ…」

 熱に浮かされたようにただ名前を呼びあう。

「っあ…も…イ…クっ」

 思うまま揺さぶられ、快感の雫を流す分身を扱かれれば、あっという間に絶頂は近づく。 次元の訴えに、ルパンの動きが一際激しくなる。ぎしぎしとスプリングが悲鳴を上げる。

「あああっ!!」

 ビクビクと腰を震わせ、次元は絶頂に達した。同時に注ぎ込まれる熱がある。

「…もう…どこにも行くなよ」

 荒い息をつきながら、ルパンがそんなことを呟いた。 その目には、幼い頃に別れたあの日と同じ不安な色が漂っていた。

「ああ…どこにも行くもんか」

 汗ばんだ身体を抱きしめて、次元は答えた。どこへも行くものか。こうして再び会えたのだから。

 この感情がなんなのかんか、相変わらず分かりはしない。友情なのか、恋情なのか、愛情なのか。 だが、ルパン三世という人間の、友人だとか恋人だとか愛人だとかになりたいわけじゃない。ただ"相棒"であれればそれでいい。
 その位置を譲り渡すことがあるとすれば、それは自分が死ぬときだ。だが、それは同時に、ルパンが死ぬときだ。 死が二人を分かつまで、俺はお前の傍に在ろう。"相棒"として。

Fin.

【あとがき】
純粋なえろのターンの予定だったのですが、それよりも次元の内面吐露の方がメインになってしまいました。
ルパン→次元の独占欲は結構激しく見えますが、実は次元も人一倍独占欲は激しいんじゃなかろうかと。 ルパンの全てにではなく、その立ち居地に固執するあたりが次元ぽいかな、とワタシは密かに思っていますが、どうでしょうか…
おまけはもう一話ありますのでお付き合いいただけましたらと思います。
'10/07/12  秋月 拝

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