闇を切り裂くサーチライト。響き渡るサイレンの音。そして。
「ルパ〜ン!!!!」
拡声器を使った銭形の怒号が、サイレンよりも大きくあたりに響き渡る。
「おほ。あ〜いかわらず馬鹿でかい声だこと。
とっつぁ〜ん!! ご苦労さ〜ん!! んじゃこの"夜の雫"は貰っていくわ〜〜〜!!」
サーチライトの光の中に浮かぶ、ド派手なピンク色の気球から、ルパンは叫び返した。
「ぬぬぬぬぬ!! 待たんか〜〜〜〜!!」
「待てって言われて待つ泥棒がどこにいるのよ〜」
呆れたようにそう告げれば、完全にキレた銭形が得意の投げ手錠を向けてくるが、届くはずもなくあっさりと地面に落ちる。
それを見かね、数人の警官が発砲を始めた。
「馬鹿者! ルパンにあたったらどうする!!」
「しかし警部このままでは…」
部下が銭形をいさめようとしたとき、ドンっと大きな爆発音が轟いた。
「なな…何事だ!!」
「わりぃな、とっつぁん!」
気球のかご、ルパンの隣からひょいとのぞいたのは、ボルサリーノの男。
「次元!!」
「パトカー、使えないようにしといたぜ〜」
今の爆発音は、気球を追いかけるべく待機していたパトカーのもの。そのエンジンを上空から次元が打ち抜いたのだ。
「ルパ〜ン!! 逃げ切れると思うなよ〜〜〜!!」
「そういう台詞は俺を追い詰めてからにしてよね。じゃぁな〜とっつぁん!!」
ふわふわと。なんとも緊張感の欠片もなく漂っていく気球から、ルパンは大きく手を振った。
「…やれやれ。仕事だって呼ばれて来てみりゃ、まさか獲物がそいつとはな」
小さくなっていく銭形の罵声を聞きながら、次元は苦笑した。
「やっぱこいつはいただいとかないとな〜」
にっと笑ったルパンが懐から取り出したのは、ブラックパールのネックレス。
10年以上も前に2人が唯一盗り損ねたお宝。
「おまけにあの時と全く同じ計画ときたもんだ。よく銭形が気付かなかったもんだ」
「ぬふふふふ。俺様の実力を証明しただけよ。あの時だって、親父がわざと警報鳴らしたりしなけりゃちゃんと盗めてたんだぜ?」
「お前…気付いてたのか!?」
思わず次元は声をあげた。一度もそんな話をしたことはなかったから、てっきりルパンは気付いていないのだと思っていた。
「気付かないわけねぇだろ。ついでに言えば、お前を撃ったのも親父だろ?」
「…それも知ってたのか?」
「まぁ、気付いたのは実は最近なんだけどもよ。あの時気付いてたら、問答無用で銃を向けてたろうなぁ〜」
へらへらとそんなことを言って笑う。
「まったく…お前ら家族にはついていけねぇよ」
呆れたように呟き、次元は肩を落とした。
「…しかしこんなもんだったか? もっとでかい真珠だった気がしたけどな」
しげしげとネックレスを眺める次元。
「俺らが成長したんでないの?」
「…お前に関しては外身だけだな。中身はちーっとも変わってねぇガキのまんまだ」
「ひでぇこと言う。あの頃のお前はもっと素直で真面目でかわいげってもんがあったぞ?髭もなかったし」
「髭は関係ねぇだろうが。その台詞、そっくりそのままお前に返すぜ。泣き虫」
「だぁれが泣き虫だ。お前こそわーわー泣いてたじゃん。つーか今だってしょっちゅう俺に啼かされてるくせに」
「ば…だからお前はガキだってんだ!!」
歯に衣着せぬやり取りも、相変わらず。
世界一の怪盗と、世界一のガンマンでもあるその相棒。
ルパン三世と次元大介といえば、今や裏の世界はおろか表の世界でも知らぬものはいないくらいだ。
「にしても何で今更これを?」
「ん? 1度狙った獲物を外したとあっちゃ、ルパン三世の名折れでしょう。それにこいつはお前との初仕事の品物だぜ?
そんなメモリアルな品物はちゃんと手に入れとかないと。まぁ言ってみれば俺とお前の愛の証? みたいなもんだし?」
「…言ってろ」
デレデレと相好を崩すルパンに、次元はげんなりした顔でそっぽを向く。
「ちぇ。ホントかわいくねぇの〜。
まぁそんなだから、今回は五右ェ門も不二子も外してお前と2人なわけ」
「なるほどね」
そんなことを言いながら、ルパンはよっこらしょと、気球の中に置いてあったリュックを背負いだす。
「そろそろ街も抜けたし、いいだろ。とっつあんが来ないうちに退却しなきゃね〜」
「あいよ」
ピンクのド派手な気球は、見つけてくださいといわんばかりでふわふわと漂っていく。もちろんこれはおとり。
銭形はこれを目標に追いかけてくるはずだから、その前にここから退散しないといけない。
2人は気球のかごを踏み越えると夜空にダイブした。空気を切り裂いて落ちていく二つの影。
バサッと、途中で黒いパラシュートが開く。闇に紛れて二つの影は難なく地上に降り立った。
「にしてもお前、あれはやりすぎじゃねぇのか?」
空を見上げた次元が苦笑気味にそう洩らした。
ふわふわ漂っていくピンクの気球には、クリスマスツリーのような電飾。そして電光掲示板まで取り付けられ、そこには"World is ours"の文字。
「だって、思いっきり目立って貰わなきゃ意味ないだろ?」
「それにしたって、"世界は俺たちのもの"ってのは言いすぎだろ」
「何言ってんの。世界の全てを盗むんだぜ? 俺たち。
あ〜、でも間違えたなぁ。やっぱ"World is mine"にするべきだったか?」
「何で」
「だって、お前だって俺のものだもん」
ニッと、満面の笑みを浮かべるルパン。
そのあまりに無邪気な笑みに、次元は苦笑をもらした。
「…やっぱお前はあの頃と変わってねぇよ」
小さくそんなことをひとりごちる。
時に冷酷で無常で。その手を血で汚すこともいとわないくせに、時折、こんなにも無邪気に笑えるお前は。
「…馬鹿言ってねぇで銭形のとっつぁんが来る前に引き上げるぞ」
「あれ〜? 信じてないの次元ちゃん。じゃあ帰ったらたっぷり教えてあげないと。お前は俺様のものだってね」
「そういうとこがガキなんだよ!!」
並んで歩き出す二つの影。
世界は俺たちのもの。
夜空に輝く星と共に、その言葉が2人を見下ろしていた。
Fin.
【あとがき】
今までで1番長いお話となってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
ワタシの過剰妄想と捏造設定のカタマリみたいなことになってしまいまして、反省は山ほどあるんですが、でも書けてよかった!
来てくださった皆様にも、少しでも楽しんでいただけたようなら幸いですが…
本編はこれで終わりですが、ちょっくらおまけが続きます(笑)よかったらご覧ください。
それでは、最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!!!
'10/07/09 秋月 拝