なぜ、こんなことになったのか、理由はよく覚えていない。
いつもどおりのアジトの風景が、立ち位置が変わるだけで随分違って見えるものだと、他人事のようにルパンは思っていた。
「…次元ちゃん? 俺をどうするつもり?」
平然とした様子で言いながら、ルパンはついと上を見上げる。自分に圧し掛かる黒衣の男の顔を。
「何、今日俺がやられちゃうの?」
「うるせぇよ」
帽子の下の目が、冷たく光る。
(…あーあ、怒ってやんの)
剣呑に光る目を見つめ、ルパンは小さく溜息をついた。この状況にも動じることなく、がりがりと頭を掻く。
立ち位置的には優位に立っているはずの次元のほうが緊張しているのだから、
傍目にはどちらが主導権を握っているのか分からないくらいだ。
「俺、なんかした?」
「自分の胸に手を当てて、よーく考えてみるんだな」
つっけんどんに言い放ち、ルパンのネクタイに手をかける。
(うーん、これはいよいよヤバイかも? にしてもフローリングの床に寝るってのは、案外背中が痛いもんだよなぁ)
そう思いながら、今日起きてからここまでの行動を振り返ってみる。
何度も起こしにきた次元の声を無視して惰眠を貪り、昼前になってようやく起き出した。
キッチンで昼飯の準備をしていた次元を見つけると、後ろから抱きつき、お目覚めのチューをねだった。
ついでに敏感な身体中をまさぐってやったとこまでは覚えている。が、気付けばこの有様だ。
「…そ〜んなにイヤだった?」
「…時と場所もわきまえずに盛ってくるんじゃねぇよ。俺は今何をしてた?」
「飯、作ってたねぇ」
「ああそうだ。お前も一回やられる方になってみれば分かるんじゃねぇのか?」
どれだけ迷惑かってことが。
酷薄な笑みを浮かべ、ルパンを見下ろしてくる。
…おそらく次元としてはそれで多少は脅しになると思ったのだろう。
プライドの高い自分が、男に抱かれるなんて絶対に拒絶するはず。しかし、そんな計画はお見通しだ。
ルパンは顔色ひとつ変えず、むしろ面白そうににやりと唇をあげた。
「へぇ…じゃあやってみる?」
「え?」
ルパンの口から出た言葉に、ルパンのネクタイを引き抜きにかかっていた次元の手が止まる。
「俺さぁ…」
するりと伸ばした手で、ルパンが次元のネクタイを引く。
ルパンの上に覆いかぶさるようになった次元の目の前で、ルパンの黒い眼が笑う。
「お前になら……ヤられてもいいかなって、思ってんだぜ?」
「な…」
甘く低く耳元で囁いた言葉に、完全に次元の思考が停止するのが見て取れた。
思ってもいなかった言葉を投げかけられて、動揺を隠せずにいるのがバレバレだ。
(ほぉら、駆け引きで俺様に敵うわけないだろ?)
虚を突かれた次元の身体を引きずり落とし、くるりと体勢を入れ替える。
反動で次元の帽子が飛び、呆然とした表情があらわになった。
「な〜んてね♪ 俺様やっぱこっちのほうがいいや」
「…ってめぇ」
「ん〜? 何かな〜次元ちゃん?」
ニヤニヤと見下ろせば、謀られたという事実に気付いた次元が、悔しそうに睨みつけてくる。
「謀ったな!」
「次元ちゃんの考えてることなんてお見通しよ?」
それに。
ふっとそこで言葉を切り、その黒い眼を覗き込む。
「あのままホントに俺が、やって、って言ったら出来た?」
「…っのやろ!!」
かっと朱に染まる頬。次元が振り上げた拳を押さえ込み、その言葉を唇ごと飲み込む。
「ん…ぅ」
くたりと、次元の身体から力が抜ける。正直なのは、言葉や表情よりも身体だってね。
「ねぇ? 次元?」
「く…っそ!!」
悔しげに唇を噛む次元に、ルパンはにやりと笑って告げる。
「今日は、俺の勝ち♪」
(いつかこの立場が逆転することが有るのかどうかは、神のみぞ…いや、俺様のみぞ知るってね♪)
Fin.
【あとがき】
このたび相互リンクさせていただきました『COLOR』様への相互リンクお礼ということで書かせていただきました。
お題は、『まさかの次ル!?と見せかけたル次』だったのですが…ちるちる様、お待たせした上にこのような駄文で申し訳ありません〜;;この設定をもっと生かせたらよかった…!力量不足申し訳ないですー;;いえもう、異論が有るようでしたら遠慮なくお申し付けくださいね;;
こんな管理人ではございますが、これからもどうぞ仲良くしていただけると嬉しいです!
相互リンクどうもありがとうございました!
'11/04/04 秋月