Smoker's kiss

「あー!」
「何だ、どうした!?」

 アジトの一室。特にすることもなく、まったりと時間を過ごしていたというのに、突然ルパンが素っ頓狂な声をあげた。
 驚いた次元が、広げていた新聞を放り出し、息巻いて尋ねる。と。

「…煙草が切れた」
「…………はぁ?」

 見れば、確かにルパンの傍にある、お気に入りの青いパッケージは空。だが。

「…んなことで大声出すなよ。何かと思うじゃねぇか」

 てっきり、何かもっと重大なことでも思い出したのかと思った。 げんなりとした様子でソファに座りなおす次元。咥えていた煙草の端を噛み、放り出していた新聞を広げなおす。

「ねぇ次元ちゃん、煙草分けて〜」

 ルパンのほうは、そんな次元の様子を気にするでもなく、無造作にテーブルの上の赤い箱に手を伸ばしてくる。 が、取り出す前に、次元に箱をひったくられてしまった。

「勝手に取るな。ヤだね。俺もこれが最後の一箱なんだ」
「ケチ〜じゃあ、お前が買いに行くときついでに買ってきてよ」
「自分で買いに行け!!」

 なおも手を伸ばしてくるルパンを一喝し、次元はフンッと横を向いてしまった。

「ちぇ」

 そんな次元を面白くなさそうに睨んだルパンだったが、不意に何か思いついたらしい。 にやあっと口角を上げると、広げた新聞に視線を落としている次元に近寄った。

「おい、次元」
「なんだ?…ん!」

 呼ばれて顔を上げた次元の口元から、すっと抜き取られる煙草。そして、その視界を、黒い影が塞いだ。

 その影がルパンであること。そしてキスされたのだということを気付いたときには、すでにルパンは離れた後だった。 自分の唇に残る、ジタンの香りと柔らかな感触。

「な…おま…何しやがる!!」

 ようやく状況を理解した次元が叫ぶ。

「ん〜? 煙草分けてもらったお礼」

 しれっとしてそんなことを言い、ルパンは次元の口から奪ったペルメルを、さも自分のもののように吸う。

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

 そんな様子に、次元は真っ赤になってわななく。

「…お前なんか知るか!!」

 荒々しくバンッとドアを叩きつけ、次元は部屋を後にする。しばらくして、外からは車のエンジンが聞こえてきた。

「あれま〜…怒らしちゃったかな?」

 それでもなお飄々と煙草を吸い続けるルパン。
 実を言えば、煙草が切れたというのも、キスするための口実でしかなかったのだが。
 唇に残る甘い香りは、次元の香り。 短くなったペルメルは灰皿に押し付け、ポケットから新しいジタンの箱を取り出す。

「ま、そのうち帰ってくるでしょ」




*   *   *   *   *



 30分ほどの後、外から車の音が聞こえてきた。
 バタンと乱暴に扉を開けて帰って来た次元は、小ぶりなダンボール箱を抱えている。

「ほらよ」
「何?」

 箱を差し出され、きょとんとするルパン。 中を覗けば、見覚えのある青い箱が、カートンで山ほど入っている。

「…どったのこれ」
「俺のを買いに行ったついでにな、そこの煙草屋のをありったけもらってきた」

 見れば、次元の分の赤い箱は紙袋に包まれて、ダンボールの隅に申し訳程度に入れられている。

「ありったけって…これすっげー量だけど」

 いくらルパンでも、3ヶ月くらいはもちそうなくらいある。

「…なくなる度に俺のを横取りされたんじゃ、たまんねぇからな!」

 そっぽを向き、そんなことを言う次元。 ちらりと覗いた、耳まで赤いのは気のせいだろうか。本心が別のところにあるのは丸分かりだ。
 一瞬きょとんとした顔でそれを見つめ、そしてルパンは小さく苦笑した。

(そーゆーとこが可愛くてしょうがねぇから、ついおちょくりたくなるんだけど、気付いてねぇんだろうなぁ〜)

「ん〜あんがと〜次元ちゃん。じゃあ俺様からお礼に熱いkissを…」
「だから! それをやめろっつってんだ!!」

 再びチューを迫るルパンに、次元の鉄槌が下ったのは言うまでもない。

Fin.

【あとがき】
テディTO様のサイト、『hide-and-seek』様と相互リンクさせていただいた記念に、『大人ルジのキス』というリクエストをいただきまして、書かせていただいたSSです。
なんか、ベタベタな展開でホント申し訳ないなぁと思いつつ、ワタシがベタ甘大好き人間なもので、こんな感じに…。
テディTO様のみお持ち帰り可ですので、よろしければお持ち帰りください。
相互リンクありがとうございました!これからも末永く仲良くしてやってくださいませ!

'10/07/02 秋月 拝

【追記】7/12
テディさんが、捧げた駄文に可愛いイラストを付けてくださいました!!
きゅんきゅんする可愛いイラスト、お言葉に甘えて誘拐させていただきました〜テディさん、本当にありがとうございます!!

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