「ああ、もう!!んなこと出来るか!!」
今夜何度目になるだろう苛立ちの声をあげ、次元はどさりとソファに座り込んだ。
とある夜。アジトの一室。
ルパンと次元の二人は、かれこれもう半日近くこの部屋で、社交ダンスの特訓をしていた。
集中力には自信があるとはいえ、それよりも先に慣れない動きに全身の筋肉は悲鳴を上げる一歩手前で。
「何で俺がこんなことしなきゃいけねぇんだ?」
眉間にしわ。疲れた足をトントンとマッサージしながら、次元はぼやく。
「んなこと言ったって、次の仕事には必要なんだからさ。ちゃんと覚えてくれよな?」
ルパンの方は疲れなど一切見せず、けろりとした顔で次元を見下ろす。
さすがはルパン帝国の御曹司と言うべきか。
社交ダンスなどお手の物、タンゴもサンバもルンバもワルツも見事にこなしてみせたのだった。
「にしても、何で俺が。不二子とやれよ、不二子と」
不満たらたらの次元。
それも無理はない。
ただ慣れないダンスを踊らされるだけならまだしも、今回の役目は女装してルパンと共にダンスパーティに潜入する、
というものなのだから。もちろんそれが決定事項となるまでには紆余曲折、相当なルパンの説得があったのだが…。
「なーんーでー!俺が女装して社交ダンスなんか踊らなきゃいけねんだ!」
「だーかーらー!何度も言ったでしょ? 不二子ちゃんには今回はどうしても別行動してもらわないといけねぇんだってば」
「じゃあ五右ェ門だ。俺より女に化けるんならやりやすいだろ?」
「そりゃ変装させるんならそのほうが簡単だけっどもよ。けど、五右ェ門にこんなことできると思うか?」
苦笑交じりに言われれば、次元は唸るしかない。
古式ゆかしい日本侍は、ダンスに関してはおそらく次元よりも不器用。教え込むだけで数ヶ月を要することは想像に難くない。
「…ったくよー…」
「はいはい、じゃあもう一回ワルツの復習したら、今日は終わるからさ」
言いながら、ルパンはひょいと次元の手を取る。
その動きがなんとも優雅で様になる…なんて一瞬思って。
しかし、そんなことを思った自分に、次元は内心舌打ちをする。
「覚えてる?ちゃんと」
「覚えてるよ」
半ばやけくそで言い放つ次元に、ルパンが笑う。BGMをオンにし、そして室内の明かりを消す。
「何のつもりだ?」
「この方が雰囲気出るだろ?」
カーテンの隙間から月明かりが差し込み、確かに雰囲気は出るが。
「野郎二人で踊るのに雰囲気もクソもあるかよ」
「そういうこと言わないのー」
ルパンはくすくすと笑いながら、するりと回した手でリードを始める。
流れるようなステップ。無理のないリードはとてもとても踊りやすくて。
「ターゲットと一緒に踊れそう?」
「…悪いが無理かもしれねぇな」
キョトンとした顔を見せたルパンに、次元はにやりと笑う。
「少なくとも。お前より上手いリードをする奴とじゃなきゃ、俺は踊れねぇよ」
「…嬉しいこと言っちゃって」
ルパンはまた耳元でくすくすと笑った。いつしかそれが、二人の甘い囁きに変わっていく。
どうか、どうか。ワタシとワルツを。
Fin.
【あとがき】
鬼束さんの曲を聞きながら勢いだけで書きました。推敲?なにそれ←