「っ…!ぅっ…!」
薄暗がりの中、隣から息を飲む音。微かに震える身体が、俺に寄り添う。
「…次元…?」
「っ…んだよっ!?…ぅお!?」
俺の呼びかけにすら身体を硬くし、無意識なのか、その手が俺の腕を引く。
…普段からそれぐらい可愛いことしてくれればいいのに。そんなことを思いながら、また、名前を呼ぶ。
「な…次元ちゃん…?」
「――――っっ!……だからっ…っなんだっ!」
気丈さを装うくせに、隠しきれていない上ずった声。ちょっと、耳元でそんな声出されたら集中できないでしょ?
「無理、しなくていいんだぜ?」
わざと挑発するように言ってやると、暗がりでも分かる潤んだ瞳が、キッとこちらを向く。
あぁ、その顔。俺をあおってんの? たまんない。
「誰がっ…!!」
「こんな震えちゃってさぁ」
そっと手を伸ばせば、薄い肩が小刻みに震えている。怖いんだろ? なぁ、次元?
「…馬鹿言え…俺は…!っっっ!?」
それでもなお、気丈に放ちかけた言葉を、しかし、画面からの大音量がそれを掻き消した。
(ギャァアアーッ!!)
「ぎゃぁああああ!」
その声に負けず劣らずの大絶叫を放ち、次元は俺の首筋にしがみついてきた。
ご丁寧に、ちゃっかり俺の膝の上に乗り、おかげで画面は見えたものではない。
ちらりと次元の肩越しに見えたテレビ画面には、ざんばら髪に血みどろの女の顔が映し出されていた。
「やっぱ日本のホラーは迫力あるよなぁー…あーあ…言わんこっちゃない。だから怖いんなら無理すんなって言ったのにー」
普段もっとグロテスクなものを見る事だってあるというのに、なぜか次元はこの手のものに弱い。
ま、俺はそれを知っててこんなものを借りてきたわけで。もちろん、この展開を期待してなのだが。
「ル、ル、ル、ルパーン!!」
次元はほとんど半泣きで俺の肩口に顔を埋めてくる。
「次元ちゃんてばかわいー」
どさくさに紛れてほっぺにチューしてるのにも気付かないなんて、ホントどうかしてる。
しがみつかれた首は若干痛いけど、滅多にないこの状況を楽しまなきゃ損だよな。
もちろんDVDが終わったって、俺のほうが離してやるわけないけど!
Fin.
【あとがき】
『DVDを見るル次で会話SS』という宿題を出されたあと、地の文も入れて書き直したもの。
パート2はホラーDVDを見るル次。
ギャグは会話の方がインパクトありますよね。