甘いのはお好き?

 昼下がりにリビングへ立ち寄ると、ルパンが1人DVDを見ていた。

「おまえまたそれ見てるのか? よく飽きないなー」

 画面に映し出された女優には見覚えがある。 ルパンお気に入りのラブロマンスは、あまりにアジトでかかっている頻度が高いせいで、 全く興味のない次元でさえ俳優の顔はもちろんテーマ曲まで覚えている。

「飽きねえよ! だって何度見ても泣けるんだぜ!」

 案の定こちらを振り返ったルパンの目はすでに潤み、鼻はずびずびと音をたてていた。

「…そんなにいいのか?」
「劇的な運命に導かれて出逢った男女が苦難によって引き裂かれ、それでも愛の力で再開を果たし結ばれるんだぜ!  これ見て泣かないでどうするんだ!!」

 思わずそうこぼすと、ルパンは握りこぶしで力説しだした。 あまりに真剣なので、次元は気その迫力におされて一歩退いてしまう。

「…ベッタベタだなー」
「ベタで何が悪い! だって泣けるんだもん!」

 そして。ふと思いついたように、次元を見つめてくる。

「…お前も一緒に見ない?」

 下手をすれば台詞がそらんじれそうなくらいに聞き流しているが、確かにきちんと見たことは一度もない。だが。

「あらすじだけで胸焼けしてるからいい」

 もとよりラブロマンスなんか趣味じゃない。映画はマカロニウエスタンしか興味はないのだ。

「ホント? 次元ちゃん甘いの嫌い?」

 しかし、ルパンのほうはその返答が気に入らなかったのか、しらーっと不機嫌そうな顔で次元を見返す。 なぜか疑り深い目つきで。

「なんでそんな疑ってるんだ。あぁ苦手だな」
「嘘ぉ」

 ひょい、とルパンの手が伸びる。

「おい何す…」

 ソファの背中越しに伸びた手は、抗議する次元の頭を抱え込み、そして。


ちゅv


 軽い音をたてて、唇が離れる。見上げてくるルパンの顔は、にやりとして。

「…こんな甘いのも嫌い?」
「…るせぇよ、馬鹿」

 ルパンの、からかいと本気の入り混じった声のが次元をざわつかせる。

(そんなの、ほんとのことなんて言えるわけねぇだろ)

 火照った顔を見られたくなくて、慌てて部屋を出る次元の背中に、ルパンの笑い声が聞こえた。

Fin.

【あとがき】
『DVDを見るル次で会話SS』という宿題を出されたあと、地の文も入れて書き直したもの。
会話SSは好きだけれど、書くのは逆に難しいです;;

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