「――――――!!」
闇に慣れない瞳は何も映さず、聞こえてくるのは自分の荒い息と、かすかな時計の秒針の音。
(あ〜…夢…か…)
ぐっしょりと汗に濡れたシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。
まだ床についていくらも経っていないだろうことは、一向に明ける気配のない窓の外を見れば分かる。
「…どうした?」
傍らで眠っていた男が、もぞもぞと動き出す。
「悪ぃ、起こした」
「ん。別に。…珍しいな。随分うなされてたぞ。悪い夢でも見たか?」
男はそう訊きながら、枕元をまさぐって取り出した煙草に火を点ける。
ライターの火に、眠たげな黒い眼が照らし出された。
「ん〜…」
何かに追い立てられる焦燥感も、何かが迫ってくる恐怖も、ありありと思い出せる。それなのに。
「…忘れちまった」
それが何だったのか、一向に思い出せない。
「…なんだそりゃ」
へらっと笑って見せると、男は小さく肩をすくめた。
まさか、お前の眠そうな顔見たら安心した。なーんて言えるわけないよな。
そんなことを思って、内心で苦笑する。
着替えるのも面倒だったので、汗に濡れたシャツを脱ぎ捨てると、そのままベッドにもう一度潜り込んだ。
「おい、風邪引くぞ」
「何? 心配してくれてるの?」
「…お前が風邪引くと、大抵俺まで巻き添えを喰うから嫌なんだ」
くああと大きな欠伸を1つして。まだ長い煙草を灰皿に押し付け、男もベッドに潜り込む。
「なぁ次元?」
再び暗闇に戻った部屋の中、隣の男に呼びかける。
「ん? 何だ?」
くるりとこちらを向いた男の顔。その額に、キスを1つ落とす。
「何しやがる…!!」
「おやすみのチューだろ」
「…馬鹿じゃねぇのか?」
しれっと言ってやれば、男がそれ以上反論してこないことも知っている。
案の定、男はそれだけボソッと呟くと、また向こうを向いてしまった。
「オヤスミ、次元」
「…おやすみ、ルパン」
おやすみ、相棒。いい夢を。
Fin.
【あとがき】
珍しくルパン目線のル次。
あんな頭のいい人の目線で書こうとした、愚かなワタシをお許しください…