今日はバレンタインデー! 大好きなあの子が俺様にチョコレートをくれて愛の告白をしてくれる日。そりゃもうテンションが上がらないわけないよな。随分前からおねだりしといたから、渋々ながらも次元ちゃんはチョコを用意してくれるはず。そういう義理堅いところが次元ちゃんの次元ちゃんたる所以だよね。
次元ちゃんにばっかり用意させるのも悪いなって思ったから、俺だってちゃんと用意したんだぜ。気に入ってくれると良いんだけども。
「次元ちゃーん♪」
アジトに帰るなり、晩ごはんの準備をしていた次元ちゃんの背中に飛びついたら面倒くさそうに振り返られた。
「危ねぇだろうが。火使ってるときに飛びつくんじゃねぇよ」
「つれねぇの。今日が何の日か覚えてる?」
「あんだけ毎日のように催促されたら忘れるはずもねぇっての」
くいっと顎で示した先、テーブルの上には赤い包装紙とピンクのリボンでラッピングされた小さな箱。呆れたように溜息。その目の前に俺は用意して帰った箱を差し出す。綺麗にラッピングされたそれはちょっとしたハードカバー本ぐらいのサイズ。
「なんだこれ」
「お前にバレンタインのプレゼント。開けてみてよ?」
ただのチョコレートじゃ芸がねぇ。ちょっと趣向を変えてみたんだけども…。
怪訝な顔しながらフライパン置いてリボンに手をかける次元。器用に片手で包装を剥いで箱を開けて…。
「……なんだコレは」
あれ…ご機嫌ナナメ? ワントーン声が低くなっちゃったんだけど。
「え…何って……褌…」
だって今日ってバレンタインだけど同時に褌の日なんだってね? そりゃもうそうなったら履いてもらうしかないじゃない。五右ェ門に聞いてこういうの売ってる店を教えてもらって綺麗に包装もしてもらって。
「お前…いい加減にしろよな」
「次元ちゃん怒ってる…?」
「当たり前だ」
ま、ある程度は予想済みだったんだけども、それをはるかに上回る怒りっぷり。
「お前、俺がどんだけ苦労して…っ」
怒りのあまり箱を握りしめた手がふるふる震えてる。そんなに怒らなくてもと思うんだけど…。きっとこいつのことだ。女の子まみれの店内でチョコレート買ってくるとか、こいつにしてみれば罰ゲームにも等しかったんだと思う。
「お前なんか知るか! チョコなんかやらねぇ五右ェ門にやる!」
「ちょ…そりゃないでしょ! 冗談だって冗談!」
俺のプレゼント放り出して、テーブルに置いてあった小箱握りしめて大股歩きでずんずんキッチンを出て行こうとする。慌ててその手を引いて向き直らせた。
「ふざけんな。何が冗談だお前なんか大っ嫌いだ」
「嫌いとか言わないでくれよ。俺は大好きだぜ次元ちゃん。これで機嫌直してよ」
そう言ってもう一度差し出したのは赤いリボンを結わえた小さな瓶。
「なんだこれ」
「お前はチョコよりこっちの方がいいでしょ? チョコレートビール。今夜はこれで一杯どう?」
「……ん…」
怒りの矛先を失った次元はちょっとばつの悪そうな顔。まぁそんなとこも可愛いんだけど、本当に。
「次元ちゃん『愛してる』は?」
「…誰がお前なんかに言ってやるか、馬鹿」
素直じゃないんだから。たまにはチョコレートみたいに甘くなってくれてもいいんじゃないの? でもホント、そんなところが好きだぜ俺は。
Fin.
【あとがき】
なんかいろいろ本当にごめんなさい←