Lonely night

 格子窓の外を吹き抜ける風の音に、浅い眠りから目を覚ます。眠れない夜。それでも少しまどろんでいた気がしていたが、窓の外に浮かぶ月は先ほどから微動だにしていなかった。冴え冴えと輝く青い月をベッドから見上げ、次元は小さく嘆息した。
 打ちっぱなしのコンクリートの壁。窓にはまった鉄格子。とある警察署内にある留置場。今回の仕事で必要な潜入であった。見慣れた光景ではあるがやはりいい気分はしない。
 冷たく埃っぽいシーツの上で寝返りを打ち、また小さく溜息をつく。ルパンがやってくるだろう計画の時間まではまだ5時間近くある。寝れるときには寝て体力を温存しておかないといけないのに、疲れきった身体とは裏腹に頭は奇妙なほどに冴え渡っている。
 独り寝が寂しいなどと思うようになるなんてどうかしている、と思った。留置場の中なんていう、精神的負荷のかかる場所のせいだとも思ってみるが、胸の奥底にわだかまる不快感はどんどん膨らんでいく。その不快感が寂しさだとすら俄かには信じがたいぐらいだ。だが、数時間後に自分を迎えに来る男のことを思うたびに少しだけ心が軽くなる。そのことに気付き、次元は小さく自分に舌打ちをしたい気分だった。

 一人でいることなど当たり前すぎて、寂しいとさえ思うこともなかった。今までは。

 独りでいることの寂しさを知らなければ。二人でいることの暖かさを知らなければ。独りきりの夜がこれほど長いと思うこともなかっただろうに。気を紛らわそうにも、生憎ここには酒も煙草も女もない。自分しか向き合うものがなくては、嫌でもその寂しさを目の当たりにすることになる。そんな感情を持て余す自分が腹立たしくて鬱陶しくて、…でもほんの少し…。

「…どうかしてるぜ」

 小さくひとりごちた言葉が、やけに大きくコンクリートの壁に響いた。

 ルパンが潜入してくるまで、あと4時間半。たとえ迎えに来た男の顔を見ても、決して寂しかったそぶりなんか見せてなどやらないけれど。寒くもないのにぎゅっとシーツに包まり、次元はもう一度目を閉じた。鉄格子の窓の外では冷たい風が啼いていた。

Fin.

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