結局のところ、どんなに長く一緒に居ようともどれだけ近くに居ようとも、あいつが俺ではなくて俺があいつになれない以上、赤の他人以上の関係になることなどできるわけもなくて。だからその心の奥に潜むものを100%理解することなんて出来ないし、もちろんその痛みを完全に拭い去ってやることなんて出来るわけもない。
暗闇の中で伸ばされる手が、乱暴に俺を掻き抱く。手首を握られ思わず痛みに呻くと、それごと唇を奪われる。性急に求められ、ごくりと喉が鳴った。
傍若無人とか大胆不敵とか自信満々とか、そういった言葉が世界一よく似合う男。手に入らないものはない。出来ないことはない。そんな常人離れした天才と称される相棒にも、泣きたいときがあることを俺は知っている。
いや、…そんな男だからこそ泣きたいときがあるのだと思う。誰にも理解されない深い深い奥底で。
噛み付くようにして喉元を食まれ、胸元に顔を埋められる。いつになく乱暴で余裕のない動きは、こいつが焦っている証拠。
誰にも理解できない不安や孤独を胸の奥底に溜めてそれに苛まれるのは、やはりこいつが人並み外れた男だということだ。ただの人並みの人間である俺には理解さえできないかもしれないし、分かったところでそれをどうしてやることも出来ないだろう。無力だと思う。非力だと思う。
「ルパン…」
そっと囁いて手を伸ばせば、男は暗闇の中でぎくり、と身を硬くする。
「次元…?」
掠れた声が俺の名を呼ぶ。
「ここに居るぜ」
ここに居るから。小さく呟き、そっと男の頭を抱え込んだ。そしてその肩口に甘えるようにして顔を埋めると、ぎゅうっと力いっぱい抱きすくめられた。こういうところを見せられると、こいつもただの人間だったんだな、と思って少し安心する。
結局のところ、俺はお前じゃないしお前は俺じゃない。それは当たり前で、でもそれだからこそ俺達はこうやって傍に居られる。自分にはない全てを受け入れられるだけの心の広さが欲しいなんて思う。無力でも非力でも、それくらいなら人並み男の俺にだって出来そうな気がする。でも実はそれが一番難しいことだったりして。
「次元…」
弱々しく囁くその顔が見たいと思う。だが、見たくないとも思う。どんなときでも自信に溢れてタフなルパンでいて欲しい。けれど、こんなルパンを見れるのも世界で俺だけなのだということに、優越感を持ってもみたりする。そんな葛藤にも似た感情が俺の中で揺らめく。あれもこれも全部お前。
「ルパン?」
「何」
その声には応えず、まわした手で広い背中をゆっくりとさすってやった。
俺はここに居るよ、いつだって。お前の気が済むまでこうしておいてやる。それでお前が救われるのならば、いつだって。
Fin.
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