ゆらゆらと、ゆりかごに揺られているようなぬくもりの中、どこからともなく聞こえる規則正しい心音。
とくん、とくん。それがひどく心地いい。
(ん……)
身体中が痛み、思うように動かない。
(あれ、俺、どうしたんだっけ…?)
仕事終わりにルパンと一緒に酒を飲み、いつもどおり眠りにつこうとして、そして…。
そこまでゆらゆらと思い返した後、唐突に意識が覚醒する。
「!?」
目覚めて一番に目に入ったのは、隣に眠る裸の男の姿。そして。
「…いってぇ…」
身を起こした途端に下半身を襲う鈍痛。そこでようやく昨夜の出来事を、あまり思い出したくもないその出来事を思い出す。
(夢…じゃねぇんだろうな、あれは)
夢でないということは、重く疼く腰と、視界に入ってくる自分の身体のいたるところに残された鬱血痕が物語っている。
「…夢…のほうがよかったんじゃねぇのかねぇ…お互いに」
隣ですやすやと幸せそうに眠る相棒を眺め、次元は小さく嘆息した。
いつかはこんな日が来るだろうと思っていた。友人としての一線を相棒としての一線を越えてしまう日が。
自分に対するルパンの気持ちの変化には、随分前から気付いていた。その視線に込められた意味にも。
気付いていながら気付かないフリをしていた。だがその熱い視線を無視することが出来ない自分がいるのも事実で。
拒否するか迷っているうちに、先に行動に出たのはルパンだった。
『…俺は本気だぜ、次元』
ベッドに引きずり込まれ、キスの最中に囁かれた言葉を思い出す。
嫌だと抵抗する次元に、ルパンはそう言ってひどく情けない顔をしたのだ。
(あんな顔されたら…拒めねぇだろうが。馬鹿)
「…次元」
不意に名前を呼ばれて振り向くと、いつの間に起きたのか、ルパンがこちらを向いていた。
黒い眼に揺れるのは、後悔とか不安とかそういった類の負の感情。
「その…怒ってる?」
「あ? なんで」
「いや…その…すまねぇ」
ぼそぼそとそんなことを言う。全く、こいつは。
「…謝るんじゃねぇよ」
「え?」
次元の言葉に、ルパンはきょとんとした顔を見せる。
「謝るなって。お前が謝ると、俺がみじめだろうが」
お前を拒否しなかった自分が。
「それ、どういう…」
「お前じゃなかったら…」
誰が男なんかに抱かれるもんか。
そう言いかけた言葉を途中で切り、次元はベッドに潜り込んだ。
「え、ちょっと、次元? 気になるんだけどっ」
「寝る!」
キスされて、組み敷かれて、その途中で。心のどこかでこうなることを望んでいた自分に気付いてしまったから。
「何、何、何!? ちょっと次元ってば! 何真っ赤になってんの? あ、そんなにヨかった?」
「五月蝿ぇ! 反省してるんならな、それなりの行動を示せってんだ!!」
ゆらゆら、とくんとくん。
背中にくっついてくる男の体温と心音が、心地いい。悔しいから、そんなこと絶対に言ってやらないけれど。
「次元?」
「…んだよ」
「愛してるぜ?」
「…馬鹿」
温もりに身を委ねながら、次元はもう一度眠りに落ちた。
Fin.
【あとがき】
10お題の続きっぽいもの。
今までの関係を強引に捻じ曲げるのはルパン様であって欲しい。