「…さぁ、何でだろうなぁ」
なぜルパンと共に居るのかと問うた五右ェ門に、次元はしばらく悩んだ挙句にそう答えた。
五右ェ門からすれば心底不思議でしょうがなかったのだ。暗黒街イチの腕を持ち、裏の世界で知らないものはいない。
死神とまで呼ばれたことのある男が、世界に名を轟かせているとはいえただの泥棒の片腕でいることに。
「何だ。自分でわからぬのか」
「…んな顔で見るなよ」
得心がいかないといった五右ェ門のほうを向いて、次元は苦笑する。
その横を犬を連れた老人が歩いていった。買出しの帰りに通りかかった公園。
煙草が吸いたいという次元に付き合って、ベンチで一休みすることになったのである。
明るい日差しの中で並んで据わる自分達がこの場に馴染まないことは先刻承知だが、そんなことにももう慣れっこだ。
ふーっと吐き出した煙が空へと昇っていく。ブランコが風に吹かれてきぃと小さく軋んだ。
「じゃあ逆に聞くけどよ、お前はなんで俺達と一緒に居る?」
「拙者は…」
いつかルパンを越えたいと思った。突き詰めればそれが全てだ。
そう答えると、次元はへぇと小さくいた。
「おぬしはどうなのだ」
「…惹かれちまったのさ、あいつに」
もう一度問えば、またしばらく考え込んだ後煙草の煙と共にそんなことを呟く。
「…どういうことだ?」
「物心ついたころから人を殺すことで自分を守って生きてきて、暗いところが俺の居場所だと思ってた。
こんな風に明るい場所は正直居心地が悪くていけねぇ」
自嘲気味に唇を歪める次元。その心の裏側は、五右ェ門にもよく分かる。
幼い頃から人を斬って生きてきたのは自分も同じ。闇の世界でしか生きられないのはもはや自分達の宿命のようなものだ。
「けど、あいつは違ったんだ。こっちの世界に生きてるくせに、明るくて自由で何にも囚われなくて」
そんなあいつに、惹かれた。そして、俺には絶対真似の出来ないその生き方に惚れたんだ。
そう言って笑った次元の顔は清々しくて。
と。
「おーい、お前ら、何やってンだ〜?」
道の向こうから手を振りながらやってきたのはルパン。
「ったく遅ぇから迎えに来てやったぜ?」
「俺らはガキかっての。今行くって!」
誰憚ることなく大声で二人を呼ぶルパンに辟易しながらも、次元もそれに応じる。
「お前もそうなんじゃねぇか? 五右ェ門」
大きく手を振りながら無邪気に笑うルパンの笑顔に。自分を暗いところから引きずり出したその温もりに。
惹かれてやまないのだと。
「あいつは俺の太陽なのさ」
多分、な。そう言って、帽子の下で薄く笑う。
「あいつが太陽で、俺は月。あいつがいるから俺はここに居られるんだ」
「…つくづく気障な男よ、おぬしは」
「褒め言葉と思っとくぜ」
くすくす笑いながら次元はベンチを立つ。緩い風が、スーツの裾を揺らしていった。
「何、何? 何の話してたの?」
近寄ってきたルパンが、興味津々に二人を覗き込んでくる。
「ナンでもねぇよ」
「ぇえ〜教えてくれたっていいじゃないのー次元ちゃんのケチー」
「うるせぇって」
そう答える次元の顔はひどく穏やかで。
(なるほど)
信頼、いや、それ以上の何か。互いに互いの特別であることを知っているから。
(こやつらには一生かかっても敵わぬかもしれぬ)
そう思うと、知らずフッと笑みが零れた。
「ん? どったの五右ェ門?」
「何でもない。帰るか」
「そうしましょー俺様腹減っちゃった〜」
「わかったから大人しくしてろって」
連れ立ってアジトへと向かう三人に、太陽の光が燦々と降り注いでいた。
Fin.
【あとがき】
理由なんて、後からどうとでもつけれるものだったりして。
改めて訊かれるとよくわからないくらい無意識に慕っている次元さんに萌える。