Dolly Doll

「ほらよ、次元」

 ルパンから唐突に差し出された箱に、次元は怪訝な顔を見せた。

「…何のマネだ?」

 可愛らしいピンクの包装紙に赤いリボンがかけられた、どう見たって自分には縁のなさそうな箱。 思わず受け取ってしまったが、はっきり言ってかなり嫌な予感がする。

「開けてみろよ」
「開けた途端にドカンなんてことはねぇだろうな?もしくは煙が出てきておじいちゃんとか」
「…んなわけあるかよ。俺をなんだと思ってんの」

 呆れた顔のルパンにせかされ、恐る恐るリボンを引く。

「…なんだこれ」

 包装を剥ぎ開けた箱の中にあった…いや、いたのは、ピンクのドレスを着た可愛らしいフランス人形。 無機質な青い瞳が真っ直ぐに次元を見上げてくる。

「何だこれって見ての通りのお人形。約束したろ?」

 ほら、この間の仕事のとき。そういわれて、次元はようやく思い出す。 確かにこの前の仕事のときに下らない昔話をした。縁日の射的でピンクのドレスのフランス人形を取り損ねた話。

「フランス人形買ってやる〜って…あれ本気だったのか」

「俺様、約束は守る男よ〜?」

 というより単に、髭男とフランス人形という取り合わせが見てみたかっただけだろう。

「可愛いだろ。ちゃんとしたビスクドールの骨董品なんだぜ」

 確かに言われて見れば、そこいらのおもちゃ屋で売っているようなゴムやプラスチックの大量生産品ではない。
 白くつややかで滑らかな肌は陶器特有の冷たさで、ふんわりとした手触りのいい金色の髪。 ピンクのドレスだって少し年代を感じるような色褪せがみえるものの、上等な生地でフリルもふんだんにあしらわれている。

「いやまぁ、いいもんなんだろうけどよ」

 昔自分が取ろうとしていたフランス人形なんかよりよっぽど上等なものだ。
 だからと言って、俺にどうしろって言うんだ。そう言って思わず眉間にしわが寄る。

「…やっぱ似合わねぇなぁ」

 そう言って、ルパンはげらげら笑い出す。

「うるせぇ。ほっとけよ」

 自分でも自覚はしているが、他人に言われるとことさら傷つくのはなぜだろうか。

「それにしても、なんでフランス人形が欲しかったわけ?」

 よっぽど他の賞品がしょぼかった? 言われて思い返して、あまり思い出したくない記憶にぶち当たった。

「…別に。ただなんとなくだ」

 興味津々に覗き込んでくるルパンに辟易しながら、次元はぶっきら棒にそう答える。

「なんとなく〜?そんなわけないでしょ?」

 ねぇねぇと懲りることなく詰め寄ってくるルパン。

「うるせぇ!なんとなくったらなんとなくなの!!」
「ムキになるのが怪しいぜ。隠すことねぇだろ?」
「隠してねぇって!」

 そんなことを言いながらも、次元は心の中で誓っていた。
…言えるもんか! 隣に住んでた女の子にねだられたなんて!! 絶対ルパンには言わないからな!
 言えば最後、からかわれるのは目に見えている。 そんな、甘酸っぱくてこっぱずかしいことが言えるもんか。
 そのままわーわーといつもの口喧嘩を始める二人。 そんな二人を可愛いビスクドールがテーブルの上で見守っていた。

Fin.

【あとがき】
『ターゲットは555M』ネタで。
実は初書きル次ですが、この頃はまだル+次ってつもりでした。次五サイトのつもりだったので。
どこで道を誤ったのだろうか(笑)

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