ズルイオトコ

「ちょ…てめッ…おろせ!!」

 背中から聞こえてくる雑言には耳も貸さず、酒のせいだか少々覚束ない足取りの次元を肩に抱え上げ、 (後で考えたら姫抱きでも良かったかな? なーんて思ったりもしてけれど。)そのまま寝室へと向かう。
 その間中次元は俺の背中をバカスカ叩くけれど、それぐらいじゃ俺は諦めないぜ? 尤も、次元の愛銃は腰から頂いているのだからこれ以上の抵抗のしようもないのだけれど。 …さすがに俺だって、マグナムの銃口を向けられるのは勘弁して欲しいからな。

「よっ」
「ってぇ!! おいルパン!!」

 掛け声と共にベッドへ放り出すと、次元が抗議の声を上げる。

「何する…」
「ん? 分かってるくせに。何ってナニよ?」

 次元が体勢を立て直す間に圧し掛かり、その身体を押さえ込む。二人分の体重を支えたベッドが、小さくぎしりと鳴った。 にやにや笑いながらネクタイに手をかけると、次元がぎろりと睨みあげてくる。

「…放せ」
「あらま、ツレない態度だこと」

 次元が素直に抱かれないのはいつものことだけれども、 その据わった黒い眼に浮かんでいるのは間違いなく怒りとか、そういう感情で。

「…怒ってんの?」
「そう見えるか?」

 この上ないくらいに冷たい声。

「そう見えるんなら、お前にやましいことがあるんだろ」

 違うか? そう問われて、俺は黙り込む。 そりゃ、折角苦労して手に入れたお宝を不二子ちゃんに渡しちゃったとか、 こんな可愛い恋人ほったらかして不二子ちゃんとデートに行ったとか、まぁ思い当たることはいろいろあるんだけども、 俺から言わせてもらえれば、それとこれとはぜーんぜん別のお話で。
 そんなことを悶々と自問自答していると、フンッと次元が鼻で笑う。

「どうせお前のことだ、『それとこれとは別』とか考えてるんだろ」
「…さーすが次元ちゃん」

 ご明察。伊達に付き合いが長いわけじゃない。

「ふざけるんじゃねぇよ。毎回毎回おめぇに付き合わされる俺は何だって言うんだ? いい加減にしろよ。 寂しかったの? だなんて、どの口がそんなこと聞いてやがる? 馬鹿じゃねぇのか。自意識過剰もいいとこだぜ」

 俺が口を挟む余地もないくらいにべらべらと喋りだす次元。そういえばさっきもこんなだったな。俺は呆気に取られるしかないが、 珍しく饒舌なのは、もしかして酒のせい? 相変わらず据わった黒い眼が、ほんの少し焦点が合っていないことに気付く。

「…けど実際な」

 そこで、ふっと言葉を切り、次元は視線を逸らす。

「…おめぇはズルイオトコだよ」
「え?」

 ぼそりと呟かれた言葉。思いがけない言葉に、きょとんしてと見下ろした俺を再び黒い眼が見上げてくる。

「俺がどんなにイヤだって言ったって、ヤるんだろ」
「いや、そりゃその…ねぇ?」

 不二子ちゃんに袖にされたせいもあってか、溜まっている欲求は自力では収まりがつかない状況になって、 さっきから派手に自己主張している。それを次元も気付いていたようで。

「〜〜〜〜〜〜ああもう!」

 突然、ガシッとネクタイをつかまれて引き寄せられる。

「!? 何っ…」
「…この埋め合わせはきっちりしてもらうからな」

 驚いた俺の耳元で、低い声が囁く。

「次…元?」
「ヤりたいんなら…さっさとヤれよ」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに。俺は貪るようにしてその唇を塞ぐ。

「ん…」

 薄く開いたそこから入り込み、歯列を這い回り、逃げる舌を追いかけ、深く深く口付ける。酒と煙草が入り混じった、次元の香り。 それだけで、くらくらする。

「っは…ん」

 息を継ぐ度に漏れる吐息も、色っぽくて艶っぽくて。
 ようやく開放してやると、次元ははぁはぁと肩で息をつきながら睨みあげてくる。 酒のせいだか、はたまた快感のせいだか。赤く染まった目元が壮絶に色っぽい。その顔、マジでたまんない。
 はだけたシャツの合間から、首筋にそして胸元に。唇を落としていく。

「っ…!」

 隙間なくキスで埋め尽くすかのように唇を落とし、時に強く吸い上げて赤い花を散らしていく。 その合間に胸の尖りにも手を伸ばし、敏感なそこを指先でころころと弄んでやる。 次元が感じるところは全部知っているから、そのひとつひとつを丁寧に愛撫していく。

「やめっ…ルパ…ンっ…」

 さっきまでの強気な様子は影を潜め、色づいた甘い声が漏れ始めていた。快感を知った身体は、時に言葉よりも正直だ。

「唇、噛むなよ」

 声を殺そうと必死になるあまりに、噛み締めた唇が切れてしまっていて。慌てて俺はもう一度唇を重ねる。 口に広がる微かな血の味。傷ついたそれを癒すかのように、丹念に唇を這わせる。

「ルパン…?」
「ん、何?」
「んっ…今日は…やけに優しいじゃねぇか」

 とろんとした顔で、そんなことを言う。何それ、俺様いつでも優しいつもりですけど?

「…優しいのは…嫌いか? それとも…」

 言いながら、くつろげた次元の下肢にするりと手を伸ばし、キスと愛撫だけで十分に熱を帯びたそれを急激に扱き上げてやる。

「…くっぁあ!」
「次元ちゃんってば、手荒くされる方が好き?」

 急な刺激で、身体が跳ねる。それだけでイってしまいそうなくらいな昂ぶり。零れた雫が、俺の手を濡らす。

「…何しやがるっ…このっ…馬鹿…っ!」
「褒め言葉と思っとくぜ」

 くすりと笑い、くつろげただけだった服を脱がせて濡れた指先でその奥を探ってやる。 震える身体を押さえ込み、くぷりと指を埋め込む。

「ひぁっ…やめっ…」

 そんな静止を聞いてやるつもりなんかもちろんない。 俺の動きに合わせてきゅっと締まる敏感なそこを、ゆっくりとゆっくりと慣らしていく。もちろんここだって、イイトコロは認知済み。 的確にそこを押さえてやれば、次元の口からは甘い喘ぎが絶え間なく漏れ、それが耳から俺を犯していく。 ああもう、ホントたまんない。

「あ、あ、…ルパ…ンっ…やっ…」

 2本、3本と増やした指で、次元の中をかき回す。 ぐちゃぐちゃと濡れた音が部屋に響いて、それが恥ずかしいのか次元は真っ赤になった顔を腕で覆う。 でも身体が喜んでいるのは隠しようもなく、はちきれんばかりになった雄の証からは、また先走りが零れている。

「も、…ルパ…ンっ…!!」

 物足りなくなってきたのか、誘うように黒い瞳が揺れる。羞恥心よりも、欲望が勝って。 …そして、我慢できなくなってるのは俺も同じ。

「ん」

 指を引き抜き、我慢の限界にきていた自分のモノをあてがい、そして。

「っぁあああああ!!」

 堕ちていくような甘い声を上げる次元。 解れた中は熱くて柔らかくて絡み付いてくる。ちょっと気を抜いたらすぐにでも追い込まれてしまいそうなくらい気持ちよくて。

「…っ…わり…大丈夫…か?」

 俺としてはもうこれ以上ないくらいの快感を得てるわけだが、その分次元の負担は大きいはずで。
 空いている手でゆっくりと背中を撫でて、次元が落ち着くまで待ってやる。

「…っや…っぱ、今日…お前…おかしいぜ?」

 はぁはぁと浅い呼吸を繰り返し、眉根を寄せながらも、そう言って次元は小さく笑う。

「…気のせいだろ?」

 そう答えながらも、ちょっとだけ思い当たる。 今日の俺が優しいんだとしたら、寂しい思いをさせたお詫びのつもり…かな?

「お前こそ…」
「…え?」
「今日はやけに素直だな。…やっぱ、寂しかった?」

 そう尋ねれば、次元はちょっと眉を下げる。

「…そう思うんならっ…そんなこと聞くぐらいなら…んなことすんじゃねぇよ…馬鹿」

 困った顔をしながらも、そんなことを答えてくれる。 いつもそれくらい素直ならいいんだけどな。じゃあついでにもうひとつだけ聞いてみようじゃねぇか。

「…どっちがいい? 優しいのと、激しいの」

 そう尋ねると、今度はほんの一瞬キョトンとした顔を見せたが、すぐに艶やかな笑みに変わる。

「…どちらでも…お前の、望むままに」

 ああ…お前がそんなこと言うから。お前が優しいから俺様調子に乗っちゃうんだぜ。でもこれって責任転嫁?

「っぁ…ひっ…ぁあっ…やっ…ルパ…あ…」

 ゆっくりと動き出せば、俺の動きにあわせて漏れる熱い吐息と甘い声が耳に触れて。 それがたまらなく愛しくて嬉しくて、俺は夢中で腰を振る。 俺の腕に縋りつき、同じ様に快楽を貪るその姿は、やっぱり常にはない姿で。

「気持いい? …次元?」
「ぅあっ…ぁぁあっ…ぃ…いっ…ルパ…っ…きもち…ぃいっ…!!」

 ホント、それくらい普段から素直だといいのにねぇ。 がくがくと身体を震わせ、快楽の淵を彷徨う次元は、もうまさに忘我の状態で。 きっと、朝が来たらいつもどおりの次元なんだろうけれど。そしてきっと、俺もいつもどおりの俺なんだろうけれど。 そんなことを思いながら、最後に向けて、次元のイイトコロを突き上げる。

「ぁああああああああああ!!!」

 ひときわ甘い声で啼いた次元が白濁を撒き散らして、それとほぼ同時に俺も同じものを次元の中に注ぎ込む。

「ルパ…愛して…るっ…」

 意識を飛ばす直前に耳元で囁かれた言葉が、俺の心にちくりと刺さる。 ごめんな、次元。…俺ってばズルイオトコで。
 でも、俺から言わせたらお前のほうがズルイオトコよ?  だって、なんだかんだ言いながら、可愛いところも男らしいところも優しいところも全部、俺の心を掴んで放さないんだから…!!

Fin.

【あとがき】
ブログでの小話にいたく萌えていただき、ぜひ続きを! と言われて、調子乗って書きました。
ごめんなさい、1番調子乗ってるのはルパン様じゃなくてこのワタシです←
ズルイオトコがテーマだったはずなのに、微塵も生かせてない恐怖。単にヤッてるだけですな…
色っぽく艶っぽくあでやかに書けるように精進してきます。

'11/04/29 秋月 拝

*追記*
ごめんなさい、あまり自分で納得がいってなかったので、少し前半の心理描写を中心に加筆・修正しました。
えっちを書き直すだけの技量がないので色気は相変わらずですが…
テーマだったズルイオトコの描写は少しは表現できたかしら?と自問中です…

'11/05/02 秋月 拝

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