A Beautiful Moon

傍にいて心地良いと感じるんだから、今、こうやってお前を抱きしめてる理由はなんだっていいと思うんだ。

仕事が上手く行ったからとか、祝杯に選んだ酒が美味かったからとか、そんな些細なことでいい。
ふとした拍子に目が合ったからとか、伸ばした手が触れたからとか、俺を呼んだ声が甘く聞こえたからとか、それがなんだか誘われたような気がしたからとか、そんな俺の思い込みみたいな理由でもいい。
なんだったらアジトの窓の外に浮かんでる月が綺麗だったからとか、そんな全く関係のない理由でもいい。
突き詰めていけば本当の理由は寂しかったからとかそんなもんなんだろうけど、欲しいものを欲しいと思う欲求に、やっぱり理由なんかどうだっていいと思う。

好きだから。ただそれだけ。

言葉もなく見詰め合って、どちらからともなく手を伸ばして抱き合って、貪るように唇を重ねて。
相手の熱が上がっていくのを掌に唇にジンジンと感じて、『ああ、寂しかったのは自分だけじゃなかったんだな』ってちょっと安心するんだ。
自分ばかりが相手にホレてるんじゃないか。自分ばかりが相手のことが欲しくてたまらないんじゃないか。そう思うと、凄く、悔しい。だからお前ももっと俺のことを欲しがってくれよ。

「…してもいい…?」

飛び切り甘い声で。そう耳元で囁いたら、盛大に笑われた。

困ったように眉をハの字に下げて俺を見詰める。

「こうなったら俺に拒否権はねぇんだ。どうせなら『どこでする?』の方がよっぽどお前らしくて気が利いてるんじゃねぇのか」
「…何だよそれ」

一瞬、『なるほど』とは思ったけど、よく考えれば酷い言い草。お前ってば俺のことなんだと思ってんの。俺様、優しい男よ? それにしてもいつになく積極的な台詞だこと。
俺のこと欲しがってくれてるんだって自惚れちゃってもいいのかねぇ。

「…次元ちゃん俺のこと好き?」
「…どうしたんだよ今日は。さっきから変なことばっか聞いて。変なもんでも喰ったか?」

んー? って子供にするみたいに目を覗き込まれてぐりぐり頭を撫でられた。

「んー?」

俺ってばそんな変なこと聞いてるかね。
理由はなんだっていいじゃない。今夜はそう…月が綺麗だからさ。こんな風にメランコリックにだってなるんじゃないの? そういうことにしといてくれよ。

「…そういう気分なんだよ」

伸ばした手で次元の前髪をかきあげながら呟けば、また困った顔をされた。

俺はそんな顔を見たくなかったから、また唇を重ねた。
慣れ親しんだ酒と煙草の味。微かに香る硝煙の匂い。硬くて癖のある髪。顎先に当たる髭の感触。熱を帯びて俺よりも少し高い体温。全てが愛おしい。

俺たちは磁石みたいなもんなのかもしれないな。
強力に引き寄せ合って、たとえどんなに離れたくても離れられない。気付けば吸い寄せられるようにして触れ合って、いつだって隣合わせに居る。そんな存在。
俺の隣にこいつがいない世界なんて、もう絶対に考えられない。絶対に、耐えられない。

「ルパン…?」
「なぁに次元ちゃん」

名前を呼ばれて、骨ばった大きな手にさらに抱き寄せられた。力いっぱい抱きしめられてちょっと息苦しいくらい。

「好きだ」

真っ赤になりながらほんの少し緊張した震える声で。でも精一杯真面目な顔してそんな可愛いこと言うから、ついからかいたくなって、俺も同じくらいに真面目な顔して『知ってる』って言ったら小突かれた。
そんな怒らないでよ。からかってゴメンってば。俺も大好きよ?

ああそうか。好きで好きでたまらないから、こうやってぐじゃぐじゃ理由を考えちまうのかもな。
まぁ、今日のところはやっぱり。



『月が綺麗だったから』ってことにしておくか。



「愛してんぜ、次元」


Fin.

【あとがき】
澪さん主催、春のル次祭りに投稿させていただいた作品です。
今更ながらにアップ(笑)
最初書いたときはもっと次ルっぽい感じだったのですが、ル次祭りなんだからそれじゃだめだろってことで書き直しwww
二人が信頼しあっていればル次でも次ルでも全然構わないと思う今日この頃です←

'12/10/09 秋月 拝

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