相棒の条件

『天下のルパン三世ともあろう男が、お前みたいな人殺ししか能のない、他に何にも出来ない奴を相棒にしてるなんて信じられねぇな!!!』





 はっと目覚めると、そこはいつものアジトの自分の部屋。ドクドクとこめかみが脈打ち額を冷たい汗が流れ落ちていく。嘲笑と共に叫ばれた男の声が耳から離れない。忘れられない。

「…くっそ…」

 引き結んだ唇の合間から押し出すようにして呻く。怪我を負った身体よりも今は、心のほうが痛んでいた。

 昨夜の仕事で対峙した男はルパンの昔の相棒だった。相棒と言っても、『何度か組んで仕事をしただけに過ぎない」とルパンは言っていた。だが、裏の世界では少々知られた顔である男は、むろんルパンほどではないが頭もきれるし銃の腕もいい。ルパンと組んで行った仕事の話は今でも裏世界で語り継がれていて、その噂は次元だって知っていた。
 そんな男から投げつけられた言葉は、次元の心を抉るには充分すぎるほどに辛辣だった。

「次元?」

 ぎい、と小さくドアが軋み、その隙間からルパンが顔を出した。手には救急箱とタオル。どうやら包帯を取替えに来たらしい。

「ルパン…」
「顔色が悪いぜ、痛むのか?」

 優しく問われて、それだけで胸の奥がつきんと痛んだ。そんな優しい顔を見せないで欲しい。そんな優しい声をかけないで欲しい。

「何でも…ねぇよ」

 フイッと視線を逸らすとルパンが小さく笑うのが聞こえた。

「…ホントお前って嘘が下手だよな」

 こっち向いて? また優しく言われ、その手が顎にかけられた。

「ね?」

 その黒い眼に覗き込まれると、次元は何も言えなくなる。返事がないことをどう受け取ったのか、ルパンの唇がゆっくりと重なった。煙草の香りのする薄い唇。するりと身体に回された腕が、次元の強張りを溶かそうとするかのように優しくその先を促す。この腕に縋ってしまえたら、胸の奥に淀む不安はなくなるのだろうか。男の言葉でぽっかりと空いた穴は埋まってくれるのだろうか。

「ルパン…」

 不安と期待をない交ぜにしておずおずと背に手を回すと、それが分かったのかルパンは柔らかく微笑んだ。

「無理すんなよ?」

 包帯の巻かれた肩を労わるようにしながらも体重をかけてベッドに押し倒された。互いに服を脱がせあってブランケットに潜り込み、また唇を重ねる。するりと伸びた手にわき腹をなで上げられると、それだけで身体がびくりと震えた。

「…っ」
「声、聞かせて」

 漏れ出る声が恥ずかしくて反射的に唇を噛み締めると、再びキスを落としながらルパンがそんなことを言う。その間にも胸の尖りを指先で弄ばれて、それだけでゾクゾクと背筋を駆け上がっていくものがある。勃ちあがったそこをぺろりと舌で舐め上げられ、自分でもびっくりするほど甘い声が上がってしまう。

「可愛い」

 クスリ、と笑われてかっと顔に血が上る。それを見てまたルパンは可愛いといって笑った。
 伸びた手が熱を持った中心を捉える。快感への期待で雫を零すそこを焦らすようにして触られ、さらにその先に伸びて浅いところをゆるゆると愛撫されもどかしさに知らず腰が揺れてしまう。恥ずかしくてたまらないが、快感を知った身体は止められない。
 怪我のことを慮ってなのか、ルパンはいつになく慎重に身体を重ねてくる。こんな日に限って優しくなんかされたくない。もっとメチャメチャにして欲しい。胸の中の不安を掻き消してしまうほどに乱暴に求められたい。

「ルパン…!」

 そんな想いをぶつけるようにして見上げれば、雄の色香を垂れ流しにして、ルパンは俺を見下ろしてくる。

「…どうして欲しい?」

 熱っぽく耳元で囁かれて、ごくりと喉が鳴った。足にあたるルパンのものもとっくに張り詰めていて。何も分からなくなるくらいにめちゃめちゃにして欲しい。俺はお前のものなんだと刻み付けて欲しい。

「ルパン…お前が……欲しい」

 うわごとのように囁いた言葉はちゃんとルパンに届いたらしい。

「ん、わかった」
「……っぁ…ぁああああ!!」

 足を抱え上げられずっと欲しかった熱を与えられて、痛みと快感で身体がしなる。目の前のシーツをぎゅうっと掴めば、その上からルパンの手が重ねられた。

「大丈夫か?」

 少し粗い息をつきながらそんなことを聞かれる。だから、今日だけは。そんな風に優しくしないで欲しい。いつだってお前は優しいけれど今日だけは。

「んっ…大…丈夫…だからっ」

 自分から腰をうごめかせるとルパンはちょっと驚いたように見下ろしてくる。

「次元?」
「ルパンっ…」
「お前…泣いてんの…?」
「誰がっ…」

 言われ、ぱたぱたとシーツを濡らしていくものにようやく気付く。挿入の痛みに流す生理的な涙とは違う。心の痛みを緩和するための涙。こんなところ見られたくもないのに、一度流れ始めた涙はとどめようも無く流れていく。

「…なん…でっこんな…」
「次元」

 繋がったまま抱え上げられて、まるで子どもにそうしてやるみたいにルパンがぽんぽんと背を撫でる。

「お前、あいつに言われたこと気にしてんだろ?」

 言われてギクリと身を硬くする。

「あんな奴の言うことなんか気にするんじゃねぇって。な?」
「けどっ…俺は…あいつが言うように…何にもできねぇ奴だからっ…」

 いつだって心の片隅から離れなかった想いが溢れてくる。ルパンの相棒として俺は相応しいのか。俺みたいな奴が相棒でいいのか。ずっと片隅に追いやって考えないようにしていたことを、あの男が引きずり出して破裂させたのだ。長い間に溜め込まれた不安は心を蝕み淀ませていく。

「俺…みたいな奴がっ…お前の…相棒だ…なんて…」

 しゃくりあげてしまってなかなか言葉にならない言葉を、それでもルパンはうんうんと黙って聞いていた。
「だから…俺はっ…」
「お前、本気でそんなこと思ってんの?」
「…え?」

 不意にガクンと身体を揺さぶられた。

「ひぁっ…や…!」
「俺の言うことよりあいつの言うことを信じるの?」

 急激に身体の中を貫かれ、揺さぶられ、言葉も意識も快感に飲まれていく。確かに自分で望んだことだけれど、その急激さに少し怖くなる。

「やめ…ルパ…ぅあっ…」
「お前は…あいつなんかとは比べ物にならないくらい大切な大切な……世界一の相棒なんだぜ? 現に…俺はあいつを殺してお前を選んだ。そうだろう?」

 確かに。ルパンの目の前に立ちはだかった男はルパンに殺され、俺は生きている。

「それにな…」

 好きじゃなけりゃ、誰がこんなことするもんか。
 苦笑交じりに耳元で囁かれる言葉の意味も理解しきれないくらいに意識は混濁していくけれど、でもその言葉に胸のわだかまりも少しずつ軽くなっていくのを感じていた。
 最初に望んだとおりに乱暴なほどにルパンの熱を与えられ、身体は真っ正直に悦んでいく。

「ぁ…ルパ…も…イくっ…」
「俺も…」

 ルパンの首筋にしがみつき、一際甘い声を上げて達する。ルパンの引き締まった腹を汚すのと同時にルパンの熱が中に注がれるのを感じていた。

「…次元、愛してるぜ」

 その一言だけで、あんなにも不安に押しつぶされそうだった心が軽くなる。大切なこの男の隣に胸を張って立てる気がする。

「俺も…」

 その肩口に顔を埋め、ルパンの匂いに包まれながらそっと目を閉じた。

Fin.

【あとがき】
15000hitを踏まれたミアコ様からのリクエストで書かせていただきましたvお題は『哀しい出来事に傷ついた次元さん。平気そうに振舞うけどルパン様に抱かれているうちに泣き出しちゃう…エロで!そして怪我してるとなおよい』とのことでした。
リク頂いた要素は入れ込んだつもりですが…いかがでしょうか?
取り合えず目下の目標は、受け目線のエロをエロくする、ということですね…(;^_^A
ミアコ様、お待たせいたしました!少しでも楽しんでいただければ幸いです!15000hit&リクエストありがとうございました! これからもどうぞよろしくお願いします!!

'11/06/24 秋月 拝

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