「とりっくおあとりーと」
「…何だ藪から棒に」
アジトで1人寛いでいた次元。
外から帰って来た五右ェ門が、突然そんなことを口にした。
慣れないのが丸分かりの、妙に舌足らずなというか棒読みな発音。
一応名誉のために付け加えれば、世界を股にかけるルパンファミリーにあって、彼だけ英語が喋れないわけではもちろんない。
ヒアリングはほぼ完璧なのにも関わらず、喋る方はどうも苦手らしく、癖の強いジャパニーズイングリッシュになってしまうのである。
「次元、とりっくおあとりーとだ」
再び舌足らずにそう繰り返した五右ェ門だったが、その真意が分からない次元は眉間にしわをよせるばかりだ。
「だからどうしたっていうんだ?」
「知らぬのか? 今日はハロウィンというものらしいぞ」
「…あぁ」
そこまで言われて、ようやく思い至る。
そういえば最近、街のあちこちでカボチャのランプやらハロウィンの装飾を見かけることが多くなっていたが、今日だったか。
カレンダーと縁のない生活を営んでいると、イベントごとというかどうしてもそういうことには疎くなる。
「で、それがどうした?」
頑ななまでの日本党の侍が、自ら欧米の行事に関心を持つとは思わない。どうせ誰かに(というかルパンに)何か吹き込まれたに違いないのだ。
「ルパンにな、そういえば菓子がもらえるのだと教わったのだ」
ひどく真面目な顔でそんなことを言う。どこまでも純真な男だ。次元は呆れたように目の前に立つ五右ェ門を見上げる。
「なるほどな。でも悪いが、俺はお菓子なんか持ってねぇぞ?」
甘いものの好きな不二子や、四次元ポケットの如く物を持ち歩くルパンならいざ知らずだが、
甘いもの嫌いの自分にねだってみたところで、飴玉の1つだって出てくるわけもないのに。
「そんなことは承知している」
さすがにそれくらいは予想していたのか、次元の答えに、侍は憮然とした表情を見せる。
「今すぐにとは言わぬ」
今すぐにとは言わないが、何か食わせろと、そういうことか。
甘いものを幸せそうな顔で頬張る侍を見るのはもちろんやぶさかではない。が、次元には1つ気になることがあった。
「けどお前、俺がお菓子をやらなかったらどうするつもりだ?」
「む?」
「何かイタズラするのか?」
そう切り返されるなど、思ってもいなかったらしい。眉根を寄せ、思案気な顔で侍は固まってしまった。
トリックオアトリート。お菓子かイタズラか。
この堅物の恋人のすることなら、甘いおねだりだってもちろん嬉しいが、イタズラだって見てみたい。
「これならどうだ?」
悩んでいた五右ェ門だったが、思いついたらしい。
無造作に手を伸ばすと、次元の頭に乗っかっているトレードマークをひょいと取り上げた。
「おい…」
「とりっくおあとりーと」
自分の頭よりも少し大きな次元の帽子をすっぽりと被り、その下から五右ェ門はにこっと笑った。
(ああもう、可愛いことしやがって…!!)
…それから2人が街にお菓子を食べに繰り出すまで、数時間かかったのはまた別のお話…。
Fin.
【あとがき】
5000hit企画で期間限定配布してたSSをこちらへうつしました。
次元の帽子を被るゴエって絶対可愛いと思うんですが!誰かイラスト描いてくれないかなぁ…←どこまでも他力本願
企画にお付き合いいただきありがとうございました!!
'10/11/01 秋月 拝