どうしようもなく寂しい夜は

「ん…」

 ふと人の気配がした気がして、目が覚めた。 だが、まだ暗い部屋の中には自分だけ。五右ェ門は安宿の硬いベッドの上に身を起こし、小さく嘆息した。
 3ヶ月ぶりに仕事だと呼び出されたのはいいものの、呼び出した当の本人は一向に現れようとはせず、 彼と行動を共にしているであろう相棒もまた然りだった。
 何を考えているのやら。共に仕事をするようになってかなり経つが、相変わらずルパンの考えていることは分からない。 そしてその影のように付き添う男のことも。

 妙に目が冴えてしまった。これではもう1度寝れそうにもない。
 外の虫の声が、やけに物悲しく聞こえる。秋のひとり寝が寂しいとは、昔の人はよく言ったものだ。 それだって、彼らに会わなければ。そしてあの男と身体を重ねるようになどならなければ、無縁の感情であったはずなのに。

(やはり、修行が足らぬな)

 苦笑交じりに嘆息して、部屋の電気をつける。
と。

「わり。起こしたか?」

 突然、カーテンの陰から声がした。

「な…」

 思わず刀をかまえかけた五右ェ門だったが、その陰にいた人影を認めて鞘に収める。

「…おぬし、いつの間に?」
「ついさっき。いや、悪いとは思ったけどな」

 勝手に入らせてもらった。そう悪びれもせず言い、黒尽くめの男はニッと笑った。

「よく寝てたから、起こすのもわりいと思ったんだけどよ」

 お前の顔が見たくて。 さらりとそんな歯の浮くような台詞を吐いた次元。

「全くおぬしというやつは…」

 一際大きく嘆息した五右ェ門だったが、ついと次元に近寄った。

「…何?」
「おぬしは拙者をどれだけ待たせれば気が済むのだ?」
「いつも俺を待たせてるくせに、よく言うぜ」

 黒いネクタイを引き、帽子の下を覗きこむようにして、唇を重ねた。 いつになく積極的な五右ェ門の行動に、次元は呆気にとられてなすがままにされている。
 入り込んだ舌が誘うように動き、次元を翻弄する。 つっと離れた二人の間を、唾液が滴った。

「…色っぽいことしてくれるじゃねぇか。誘ってんのか?」
「だとしたら?」
「上等…」

 帽子を投げ捨て、噛み付くようにして唇を重ね、もつれるようにしてベッドに倒れこむ。

「珍しいこともあるもんだ」
「…たまには…な」

 こんな、どうしようもなく寂しい夜には、欲望の赴くままに欲しいものを求めてみるのもいいかもしれない。

Fin.

【あとがき】
1ヶ月の開店休業の後、リハビリがてらにあげたもの。
以前本当はHまで書こうと思って放置してたんですが、なんかこれで完結してしまったので…
積極的で男らしいゴエも書きたい。

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