「七夕ってぇのは、年に一度だけ織姫と彦星が会える日なんだよな」
ベッドに寝転がったまま、となりで煙草をふかす次元が、そんなことを不意に口にした。
「おぬしがそういうことを言うとは、珍しいな?」
寝煙草はよさぬか。その口から煙草を取り上げて灰皿に押し込み、五右ェ門は片眉をあげた。
そういった行事ごとには普段興味を示さない男だ。そういう話なら自分の方が得意分野のはずである。
「七夕とは元々は中国の行事だ。それが日本に渡り、もともとあった神話と融合して彦星織姫の伝説になったのだ」
「相変わらずそういうことは詳しいよな、お前。にしても、なんで一年に一度しか会えないんだ?」
「新婚の二人が遊んでばかりいて、仕事をおこったったが故に、織姫の父である天帝の怒りに触れたのだ」
「へー…新婚夫婦の仲を引き裂くなんざ、野暮な親父だな。なんだかんだ言って娘離れできなかったんじゃねぇのか?」
「…身も蓋もない言い方だな…」
時にひどくロマンチストなくせに、普段は徹底したリアリスト。
そんな次元らしい考え方かもしれぬとは思うが、その率直さに五右ェ門は苦笑する。
「そういや天の川なんか、最近見てねぇなぁ」
「拙者はわりと年中見ておるがな」
「…そりゃお前」
五右ェ門の言葉に、次元は面白くなさそうに顔をしかめた。
「お前が一年の大半を過ごすような山奥なら、そりゃあさぞかし綺麗に見れるだろうよ」
そのせいで、彦星と織姫ほどではないが、数ヶ月に一度しか会わないこともざらではないのだ。
さすがの五右ェ門も、次元の不機嫌の理由には思い至ったらしい。ちょっと困ったように眉を寄せる。
「ならば…今度はおぬしも一緒に行くか?」
「行って何するんだよ? お前の修行に付き合えってか?」
「それでもよいが…」
まだ拗ねたように口を曲げている次元を横目に、五右ェ門は小さく笑った。
「…星を見ながらの逢瀬もまた一興ではないか?」
「…そういうことなら、喜んで」
侍の風雅な提案に、次元はにっと笑い、その額に唇を落とした。
Fin.
【あとがき】
七夕にアップしたSSS。気に入っていただけたのか、拍手が多くてびっくりした作品です(笑)
個人的にも甘さ具合がお気に入り。
こういう行事ごとを甘〜くやらせるには、次五が書きやすいのです。