次元がアジトに帰ると、夕飯時の室内にはいい香りが漂っていた。
「美味そうな匂いだな。おーい、五右ェ門!!」
今日の夕食当番は五右ェ門だったはずだ。
キッチンを覗くと、案の定の白い割烹着の後姿。しかし、呼びかけても返事がない。
「おい、五右ェ門?」
肩に手をかけ、振り向かせる。
と。
「おい、どうした!!」
「う〜〜〜」
黒い瞳は潤んで次元を見つめ、白い頬にも涙の跡が。
不機嫌そうに歪んだ口元から唸るのが聞こえる。
「どうした、ルパンに何かされたのか?それとも不二子にたぶらかされたか!?」
「…おぬしは馬鹿か。よく見ろ」
思わず気色ばむ次元だが、五右ェ門のほうはいたって冷静で、ズズっと鼻をすすりながらまな板の上を指差した。
そこにあったのは刻みかけの玉葱と、いかにも切れ味の悪そうな包丁。
「ルパンがカレーが食べたいと申すのでな。作ってみようかということになったのだが、いかんせんこの包丁切れ味が悪すぎて、このざまだ」
確かにあたりは玉葱の強烈な香りが充満し、顔を近づければ次元も思わず涙が出そうだった。
ほっと胸を撫で下ろす。しかし、勝気な侍の泣き顔などそうそう見られるものではないから、次元は内心ちょっとだけ嬉しい。
「なら斬鉄剣で刻めばよかったのに」
冗談のつもりで言った言葉は、しかし五右ェ門の逆鱗に触れたらしい。
「斬鉄剣をそのようなことに使えるか!!!」
ものすごい剣幕で怒鳴られ、…そしてその晩、次元だけが五右ェ門特製のカレーにありつけなかったのは、言うまでもない。
Fin.
【あとがき】
洋食は嫌いらしいゴエですが、カレーは食べるようですね。(新ル65話『ルパンの敵はルパン』より)
かなりベッタベタですみません。