Reason to have chosen you

5

「それじゃ、仕事の成功に」
「乾杯」

 合わせたグラスがチンッと鳴った。

「青い海。澄んだ空。そしてキレーなお花に美味い酒。くーっ最高だぜ。
これで水着の美女なんかが居ちゃったりなんかしたらも〜っと最高なんだけどなぁ」

 ニヤリと笑うルパンの目の前。テーブルの上にあるのはジュエリーブーケ。
地中海の太陽の光を集めてキラキラと輝いている。

「にしても今度は上手く行ったな」
「あたりめーだろ?このルパン様が2度も同じ手を喰うかよ。奴らも随分油断してたしな」

 昨夜、俺とルパンは2人でもう1度クラウン邸に乗り込んだのだ。
前の襲撃からは1日と空いておらず、五右ェ門が手傷を負っているのに俺たちがそんなに早く来るとは思っていなかったらしい。
警備網も前とは比べ物にならないくらい緩く、俺たちはあっさりとジュエリーブーケを盗み出すことに成功したのだった。
 もちろんクラウンと不二子にはそれなりのお返しをして。

「にしても不二子ちゃん、大丈夫かなぁ〜」
「よせやい、あの女があれくらいでどうにかなると思うか?今頃あっさり逃げ出してらぁ」

 忍び込んだクラウンの屋敷では、ちょうど不二子がお仕事中だった。

「ねぇ、ルパーン、山分けにしましょうよ〜」

 いつもの調子でルパンに迫る不二子だったが、今回ばかりはそうはいかない。
懇願する不二子を無視して、俺たちはジュエリーブーケを頂いたのである。

 クラウンのほうにももちろんたっぷりお返しはしてある。
ジュエリーブーケ以外にも金庫の中にあった美術品なんかも根こそぎ頂き、屋敷にもあちこち爆薬を仕掛けておいた。
それに、ルパンが下調べの段階で入手していた政治家への賄賂の詳細な情報を銭型に送りつけておいたから、
そろそろ警察のお世話になっている頃だろう。どうせ叩けばいくらでも埃の出る身体だ。

「そーいや五右ェ門はどうしてる?」

 胸ポケットから取り出した煙草をふかしながら、ルパンが訊く。

「ん?まぁ大分良くなったみたいだけどよ」

 もちろん昨夜の仕事に五右ェ門は参加していない。
1人留守番だったことが気にくわなかったのか、朝様子を見に行ったときにはあまり機嫌がよくはなかった。

「このままじゃ身体が鈍る。修行がしたいとかいってたぜ」
「あ〜あ。せっかく怪我してんだから大人しくしてりゃいいのに」

 煙草を咥えたままルパンが苦笑した。

「ホ〜ント、なんというか一途で一本気な奴だよな」
「ま、それが五右ェ門のいいところだろ」

 俺たちは顔を見合わせて笑った。

「そういやこれ、1本もらっていいか?」

 俺はそう言って飾られたジュエリーブーケを指差した。

「ん?不二子ちゃんにあげるって話は反故になったから別にいいけどよぉ、どーすんの?」
「怪我人に花はつきものだろ」
「な〜るほど。じゃあ好きなのもってってやんな。どうせ後で隣の部屋の金と一緒に山分けにすんだしさ」

 俺は少し迷ってから、ダイヤで出来たやつを1本選んだ。

「へぇ、マーガレットね。お前にしちゃいい趣味してんな」
「…どーゆー意味だよ」

 そこいらに転がっていた空の酒瓶をキッチンで洗って、一輪挿しのかわりにする。

「んじゃま、ちょっくら様子見てくるわ」

 花の入った瓶を片手にを片手に、五右ェ門の部屋へ向かう。

「おーい、五右ェ門、入るぜ」

 ノックしてからドアを開ける。

「次元か」

 五右ェ門はベッドから身を起こし、やたら姿勢良く本なんぞ読んでいた。
顔色もかなり良く、黙っていれば2日前に銃撃を受けた人間とは思えない。
この回復力の早さも人間離れしていると思うが、これも日頃の修行のなせる業なのか。

「勉強熱心だな。また熱が出ても知らねぇぞ」
「身体が動かせないのなら本でも読むしかないであろう?」

 ところでそれはなんだ。と、五右ェ門が俺の持っていた瓶を指差す。

「お前の今回の取り分だよ。まだ他にもあるけどよ。」

 どーせ暇だろ?花でも眺めてな。
コトリと瓶を枕もとのサイドボードに置くと、窓からの光を受けて花びらが煌めいた。

「これがジュエリーブーケの……美しいな」

 しげしげと眺め、五右ェ門はふっと笑った。
その優しい顔に、思わず俺も口元を緩めた。
そんな顔も出来るんじゃねぇか。いつも難しい顔しやがって。

「…そういや悪かったな。俺は助けてもらったのに、お前に怪我さしちまって」
「何、おぬしが気にすることでは全くござらん。全ては拙者の未熟さゆえのこと」

ケロリとした顔で五右ェ門は言う。

「…いつも思うけどよ。刀1本でマシンガンの群れに突っ込んでいくなんざ、怖くねぇのか?」
「おぬしらしくもない愚問だな。それはおぬしとて同じであろう?刀か銃かの違いだけのこと」

 言われて見れば、その通り愚問だった。こういう生き方しか出来ないのはお互い様だ。

「それにな」
「ん?」
「後ろにはおぬしもルパンもおるではないか」



 至極当然といった表情で、五右ェ門は笑った。



その顔を見て、俺の胸がキリリと痛んだ。
こいつは俺をそんな風に信用してくれているのに、俺は。

「どうかしたか?次元」

 言葉に詰まった俺を、五右ェ門がいぶかしげに見た。

「……いや、別に」

 この時ほど、目深に被った帽子をありがたいと思ったことは無いだろう。
…多分俺は今、ものすごく情けない顔をしている。

「ところで次元。拙者、腹が減ったのだが」
「ん?もうそんな時間か?」

 壁の時計を見やれば昼の12時になろうかというところだった。

「いいぜ。何が喰いたい?」
「そうだな…肉じゃがなどいいな」
「肉じゃがだぁ?んな材料用意してねぇぞ」
「…何が食べたいか聞かれたから答えただけではないか」

 五右ェ門みるみる不機嫌そうな顔になる。

「あー…悪かったって。夕飯にはなんとかするから昼飯は勘弁しろって」

 全く、世界一の剣豪も普段はワガママ放題のお子様じゃねぇか。
ま、そんなところも可愛いんだけどよ。
無意識のうちにそんなことを思って、小さく苦笑した。俺としたことが。こりゃ相当やられてるぜ。

「何がおかしい?」
「なんでもねぇよ!」

 不機嫌な侍に斬られる前に買出しにでも行くとするか。
青い海と白い花を眺めながら、俺は煙草に火を点けたのだった。

Fin.

【あとがき】
初の続き物でしたがいかがでしたでしょうか。ガンマン、鯉を捕まえる編(違う)これにて一応完結です。
不二子ちゃんがかなり悪者ぽくなっちゃいました…不二子ファンの方には申し訳ないです(汗)
言い訳に聞こえるかもですが、ワタシも不二子ちゃん大好きなんですよ〜f(^_^;)
ちなみに、裏設定ですが、マーガレットには「心に秘めた愛」とか「真実の友情」という花言葉があるらしいです。
どっちにしろ意味深…まぁ、花言葉っていろいろあるんでこれだけじゃないんですが。
それが書きたいがために、獲物はジュエリーブーケとなりました(笑)
次元は別に花言葉を知っててマーガレット選んだわけじゃないんですけどね。管理人の趣味です。
ゴエはまだ次元の片思いに気付いてませんが、どうなるでしょう?(←ワタシにもわからんかったり…)
くっつくまでにはもう少々かかりそうですが、またお付き合いくださいませ。
長くなりましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました〜

'10.05.03 秋月 拝

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