あれは五右ェ門が仲間になってしばらくした頃だっただろうと思う。
ルパンに頼まれて、二人で街へ買い出しに行ったとき。
メモを片手にカートを押しながら買い物をしていると、隣を歩いていた五右ェ門が不意に足を止めた。
「次元、あれはなんだ」
「あん?」
ぎろりと鋭い視線を向け五右ェ門の示した先には、クリスマスの装飾に包まれた一画と、その店先に山積みされたサンタブーツ
(子ども向けの、お菓子が詰まったあれだ)の数々。
「ああ、サンタブーツだろ?」
「靴なのは見れば分かる。なぜ中に菓子が詰まっておるのだ?」
「………あー……」
何と答えてよいものか思いあぐねて、次元はガシガシと頭を掻いた。
「え〜と…お前、クリスマスは知ってるか?」
「…おぬし、拙者を何だと思っている?」
さすがにそれは愚問だったらしく、眉間にしわで睨まれた。ついでに腰のものに手がかかっている。
鋭い目がますます鋭く次元を見据える。
初めの頃はその眼力と刀に手をかける動作に肝を冷やしたものだが、さすがに慣れてきた。
「悪かったって」
「分かればいい」
まだ憮然とした表情だが、侍はとりあえず大人しくなる。
本人は心外なようだが、古色蒼然とした侍がクリスマスを知らなくても全くおかしくない。
というか、知っていたことに逆に次元が驚いたくらいだ。
侍の普段の生活レベルは本当に江戸時代の侍と言ってもいいぐらいで、
仕事の打ち合わせをしていても、その前段階で世間常識を教え込むことから始めないといけなかったりする。
「クリスマスは知っている。それがどうした?」
「あれはな、クリスマスのプレゼントでガキがもらうものなんだよ」
「サンタクロースとやらが持ってくるのか? あれを?」
「つーか、親とかが手軽にプレゼントできるだろ。菓子なら子どもも喜ぶしな」
本当は来歴だのなんだのあるんだろうが、そんなこと次元が知るわけもない。
あんなもの、貰ったこともやったこともないのだ。
「ふーん?」
納得したのかしていないのかなんとも微妙な顔で、五右ェ門はまた売り場のほうを見やった。
視線の先では自分の身長の半分くらいありそうなブーツを抱え、子どもがはしゃいでいた。
「…なんだ? 欲しいのか?」
「な…馬鹿を申せ!!!」
なんとなく物欲しそうに見えたから、思わずそう口に出してしまっていたのだが、しまった、と思ったときにはもう遅かった。
侍は柳眉を跳ね上げ、本気で怒っている。鯉口も切り、完全に戦闘態勢だ。
「うぉっ! 馬鹿野郎! 店の中だぞ!?」
「うるさい! 拙者を愚弄するからだっ!!」
…この後2人が店から追い出されたのは言うまでもない。
* * * * * *
「…そのようなこともあったな」Fin.
サンタブーツを抱えたゴエはさぞかし可愛いだろう、という妄想から生まれた産物です。