次元が偵察から帰ると、なにやらアジトの中は大騒ぎをしていた。
「おい!五右ェ門動くなって言ってるだろ!?」
「もうよいではないか、拙者は着替えるぞ!」
「何言ってんの。折角なんだから次元にも見せてあげましょうよ」
「な…それだけはやめてくれ!!」
扉の向こうから聞こえてくるのはいつもの3人の声。どうやらルパンと不二子が五右ェ門になにかさせているらしいが。
「…おまえら何やってんだ?」
その騒ぎっぷりに呆れながらドアを引いた次元の視界に飛び込んできたのは。
「…はぁ?」
自分の見ているものが信じれなくて、思わず間の抜けた声をあげてしまった。
目の前に立つのはいつもと変わらぬ赤ジャケットのルパンに、いつもと変わらぬ露出度の不二子。そして。
「おい、五右ェ門…か?」
「さーっすが次元ちゃん、ご名答〜」
にひひひと満面の笑みを浮かべるルパンの横で、首まで真っ赤になっているのが五右ェ門、らしい。
らしいというのは、その容貌がいつもとは大分かけ離れていたからである。
いつもの着物姿ではなく、洋装。
しかも、襟ぐりの大きく開いたフリルっぽいトップスにスカートという、女物を着ていたのである。
かといって五右ェ門がそのまま女装したとかではなく、パッと見には完全に女の子なのだ。
トップスを押し上げる胸も、腰にかけてのラインも、男のそれでは絶対ない。
普通はこんな風にはならないから、ルパンがなにかしたのだとは思うが。
「よく出来てるだろ〜これとかもう、ぷにっぷに♪」
「やめぬかっ!!!」
突然背後からルパンに胸を掴まれて慌てる様は、言葉遣いがおかしいもののそこいらの女よりも女らしい。
「よく出来てるな。なんだこれ」
「俺様特製全身変装用特殊スーツ。その試作品なんだけっどもがよ」
なるほど。その性能を試すために五右ェ門に白羽の矢を立てたということなのだろう。
「かわいいでしょ〜?」
不二子は女装がよっぽど気に入ったのか、さっきから五右ェ門にベタベタとくっついている。
その様子は傍から見れば姉妹のように見えなくもない。
「なるほどなぁ。にしてもお前、よく了承したな」
次元は五右ェ門に尋ねた。こんなこと、普通なら五右ェ門が首を縦に振るわけがない。
「…仕方あるまい。ポーカーで一番負けたものが実験台になるという約束だったのだ」
五右ェ門は眉間にしわをよせて唸る。
「あー…」
どうやら気付いていないのは本人だけか。そのポーカーだって五右ェ門にやらせるための口実でしかないと思うのだが。
五右ェ門の後ろでにひひと笑うルパンがその証明だ。
そういう素直なところが五右ェ門らしいとは思う。
「ところで顔はこのまんまなのか?」
全身用と言いつつ、顔は普通に五右ェ門なのが気にかかった。
「ん?仕事のときは別でちゃんとやるけど、今日はどうすっかなぁ」
「はーい!アタシお化粧してみたい!!」
五右ェ門に抱きついていた不二子が勢いよく名乗りをあげた。
「な…いい加減にしろ!これで終わりではないのか!?」
「いいじゃないの五右ェ門ちゃん。何事も経験よ〜?」
さすがに柳眉を吊り上げた五右ェ門だったが、ルパンにがっちり捕まりソファに座らされ、
その向かいにポーチからメイク道具を取り出しノリノリの不二子が座った。
ここまでくると試作品の実験とかではなく、単にルパンと不二子の興味でしかないと思う。
心底自分じゃなくてよかったと思う次元だったが、自分が居たところで五右ェ門に白羽の矢が立っていたのは間違いない。
女装した髭男なんか見られたもんじゃないだろう。
「肌キレイねぇ五右ェ門。羨ましいわー」
「…なるほど。女ってぇのはそうやって化粧するもんなのか?」
と、なんだかんだ言いながらもちょっと興味深そうな次元。完全に未知の世界である。
「五右ェ門は切れ長でキレイな目だから、下手にシャドウを乗せるよりはラインをこうやって、仕上げにマスカラをこうっ…と。
ああんもう!五右ェ門てば目閉じないでよっ!」
「む…無理を申すな!」
「口紅はあんまり派手じゃない方がいいかしら。それから最後に髪をこうして括れば…どう?」
顔立ちそのものが変わったわけでもないのに、そこに居たのは完全に別人と言っていい。
切れ長の目が印象的な、それでいて清楚な感じの美女。
「へぇ、着物でもよかったかなぁ?」
化粧の済んだ顔を見て、ルパンはピュウと口笛を吹いた。
「…拙者はどうなっておるのだ」
本人は自分の顔を見れないから不安なようで、ひどく情けない顔になっている。
「すっげー美人さんだぜ〜五右ェ門。今ならたとえとっつあんだってお前だってわかんねぇんじゃねぇの?」
「ワシがどうしたって!?」
突然。バンッと大きな音をたてて扉が開いた。
そこに居たのは見慣れたトレンチコートの男。ルパン逮捕に執念を燃やす男、銭形である。
「げげっとっつあん!?なんでここが!?てかいつの間に!?」
「次元!あなた尾行(つけ)られてたんでしょ!?」
「バカ言え!俺がそんなヘマするか!!」
「わはははは。ワシが本気を出せばざっとこんなもんよ。今日こそは大人しくお縄に……ん?そこのお嬢さんは?」
どうやら部屋の真ん中に見慣れぬ顔が居ることにようやく気付いたらしく、怪訝な顔を向ける。
「ルパン!見損なったぞ!お前まさか誘拐などという卑劣なことを……!!」
何をどう解釈したのか、手錠片手にわなわなと震えだす銭形。
「は?何言ってんのとっつあん?こいつはゴエ…ぐえっ!」
しかし意義を唱えようとしたルパンの言葉は最後まで続かなかった。
五右ェ門がヒールで、目いっぱいルパンの足を踏んづけたからである。
「うぬぬぬ許さんぞルパーン!逮捕だー!!」
銭形のお決まりの台詞を合図に、なだれ込んでくる警官たち。
「ここはひとまず逃げるとしますか!」
窓を破って外に飛び出す不二子とルパン。そして次元もそれに続こうとするのを、五右ェ門が呼び止めた。
「次元!拙者の着物は…!」
「んなもん後でどうにでもしてやる!とにかく逃げるぜ!!」
女装したままの五右ェ門の手をひいて次元も窓から外へ飛び出し、ルパンの待つフィアットに飛び乗る。
「ルパン!!その女性を離せ〜!」
パトカーで追いかけてくる銭形の拡声器の声を聞きながら、次元は苦笑した。
「とっつあん、お前のことホントに女だと思ってやがるぜ?」
「…勘弁して欲しいものだな」
深々とため息をついた五右ェ門が、元の姿に戻るのはいつのことになるのやら。
Fin.
【あとがき】
700hitでいただきましたリクエストで、『ゴエモン女装ネタ』という内容で書かせていただきました。
いろいろシチュエーションも考えたんですが、次元がやらせたんじゃホントのホントにただの変態になりそうだったのでやめました(笑)
ゴエの女装は素で美形だと思うんですよね。特に新ルのゴエとかYルのゴエとかだと。
素顔にメイクしてみたい!というのは管理人の願望です(汗)
そして、リクエストくださいましたえみこ様、こんな内容で大丈夫でしたでしょうか…?
少しでも楽しんでいただけたらと思います(>_<*)これに懲りず、また是非いらしてください〜
700hit&リクエストありがとうございました!
'10.05.24 秋月 拝