月だけが見てる

「次の仕事が済んだら、2人で温泉にでも行くか?」

 不意に交わされたそんな次元と五右ェ門との約束。
ここのところわりと大きな仕事ばかりしていたから、次元自身が骨休めをしたかったというのもあるのだが、
それ以上に、日本や日本食に飢えていた五右ェ門を慮ってのこと。
 次元の優しい気遣いに感動し、そしてなによりしばらくぶりの温泉に目を奪われていた五右ェ門は、
次元のその言葉の裏に何があるかなど考えもしなかった。

 そして、その結果がこれだ。

「おぬしっ…最初からこれが目的で拙者を誘ったのか!?」

 人気のない露天風呂。今となれば、次元が24時間自由に露天風呂に入れる宿を探していたのも頷ける。
 岩陰に身を預けた次元に後ろから抱えられ、五右ェ門は思うまま首筋に舌を這わされ身体を撫で回されていた。

「だって、アジトの狭い風呂じゃこんなこと出来ねぇだろ?」

 悪びれる様子もなく笑いを含んだ声で囁かれれば、五右ェ門は呆れるしかない。

「人が来たらどうするっ!」
「誰も来やしねぇよ、こんな時間に」

 時刻はそろそろ草木も眠る丑三つ時。
ただでさえ人里離れた温泉宿はしんと静まりかえり、2人の所作を見咎めるとしたら闇夜に浮かぶまん丸な月ぐらいなものだろうか。
 湯に温められ、ほんのり上気した肌はしっとりと柔らかく。
その下に張り詰めた鍛え上げられた筋をなぞるように手を這わせてやると、五右ェ門はビクリと身体を強張らせる。

「手を…離せっ…」

 切羽詰った声は、もう五右ェ門が感じ出していることを次元に告げる。
締まったわき腹からするりと足の間に手をやれば、隠しようもなく熱を帯びた五右ェ門に触れた。

「やめっ…」

 真っ赤になって身をよじる五右ェ門。
その背に同じ様に興奮した次元が押し当てられたのを感じて、五右ェ門はますます赤くなる。

「このっ…大馬鹿者!!」
「何とでも言え。こんな色っぽい姿見せられて大人しくしてられるかってんだ」

 右手で五右ェ門自身をいたぶりながら、空いた左手は胸の尖りに伸ばす。

「はぁ…んっ…!」

そこをキュッと摘まんでやると、五右ェ門は甘い声をあげて喉を反らした。

「堪んねぇよ」
 そんな声出されたんじゃぁ。そう囁くかすれた声が、耳から五右ェ門を犯していく。
 お湯の中でゆるゆると扱かれ腰が揺れる。それが不覚にも「もっと」と次元の手に押し付ける格好になる。
分かっていても、もう止まらない。

「ほら、だんだん素直になってきた。もうイキたい?」

 ニヤリ、と笑う次元。
いつもの五右ェ門ならそろそろ耐え切れないはず。だが今日はそれでも唇を噛んで耐えている。

「噛むなよ。切れるぞ」

 噛まないようにと、振り向かせて肩越しに唇を塞ぐ。

「ん…ふ…」

歯列を舐め舌を絡ませれば、息を継ぐ間に耐え切れなかった声が漏れた。

「も…やめ…頼む…」

 唇を離すと、力の入らない身体で、それでもなお次元から離れようとする。

「こんなになってるのに?やめれるのか?」
「うる…さいっ!…やめ…ふぁ…!」

 もう限界まで張り詰めた分身は、周りのお湯が動くだけでも達してしまいそうで。
それなのに、荒い息をつきながら五右ェ門は次元の手を解こうともがき、振り返ってその胸を押しやった。

「頼むからっ…やめてくれっ…」

 赤い顔は温泉のせいか、それとも羞恥のせいか。
ぽやんと潤んだ瞳でそんなことを言われても、次元からすれば誘われているようにしか見えない。

「んなこと言ったって、もう治まりつかねぇだろ?」
「ちが…」
「何が違うんだよ?」

 視線の定まらない目で、なんとか次元を睨もうとする五右ェ門。
そこで、さすがの次元も五右ェ門の様子がおかしいことに気付いた。

「おい、五右ェ門?」
「拙者…もう…」

 ふらふらと。そして。

バッシャーン!!

 盛大な水音をたてて、サムライは突然温泉の底に倒れこんだ。

「おい!五右ェ門!!五右ェ門!!!」







「全く、湯あたりなんて情けねぇなぁ」
「…おぬしが場所もわきまえずにあんなことをするからだ」

 あれから、風呂の底に沈んだ五右ェ門は瞬時に次元に助け出され、部屋に運ばれた。
最初こそ驚いた次元だったが、湯あたりと分かれば何と言うこともない。
フロントで氷を貰い冷やしてやると、五右ェ門はすぐに意識を取り戻した。
 仲居が敷いてくれていた布団に寝かされ、面白くなさそうに五右ェ門は天上を見上げていた。

「水飲むか?」
「かたじけない…」

 渡されたコップを手に、ごくごくと喉を鳴らして水を飲む。
その白い喉を見ていたら、また次元に悪戯心が湧いてきた。

「逆上せちまうくらい気持ちよかったんだろ?」

 隣に敷かれた布団に座り、(元々は離れて敷いてあったのを次元がわざわざ寄せたのだ)、にっとイジワルそうに笑う。

「馬鹿者」

 また顔を赤くする五右ェ門に寄り添い、そして徐々に体重を預けていく。

「まさかさっきので終わりってことはねぇだろ?」

 お預けを喰らった分身は、ちょっとのことでも元気になりそうだ。それは多分、五右ェ門のほうも同じ。

「…電気ぐらい、消さぬか」

 素直じゃない恋人の、素直じゃない了承。

「OK」

 自分の枕を壁に投げて電気を消す。
今夜は月が明るい。
障子越しの月明かりに照らされながら、次元は唇を重ねた。
 今度こそ何事もなく最後まで出来ることを願いながら。

Fin.

【あとがき】
222hitキリリクということで、『お風呂(温泉)えっち』というテーマで書かせていただきました。
やっぱ王道ですよねvお風呂場えっちはvといいつつ、最後までヤれてませんが(汗)
でもホント、お風呂えっちって逆上せると思います。(←アホ)
お部屋に戻ってからのえっちは、ぜひ脳内補完でお願いします(笑)
リクエストいただきました水無月さま、ありがとうございました!こんなぬるいのでも大丈夫でしたでしょうか…(汗)
少しでも楽しんでいただけたら幸いです〜

'10.05.02 秋月 拝

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